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文系のための量子力学 第一話 量子力学の誕生

公開日

2021年1月15日

更新日

2021年1月15日

突然ですが、この写真が何かわかりますでしょうか。

この写真はなんでしょう?

シャンデリアではありません。コンピュータです!量子コンピュータと呼ばれ、現在世の中に普及しているパソコンとは全く異なる原理に基づいています。

最近ではニュース等で見かける機会も多くなり、名前を聞いたことがあるかもしれません。アメリカでは2018年に「量子イニシアチブ法」が制定され、このコンピュータの開発に向けて12.8億ドルの投資が今まさに行われています。昨年2020年12月には、中国の研究チームが「量子超越性」を達成したということが話題になりました。

しかし、「量子コンピュータ?量子超越性?そもそも量子って何?」と思われている方も多いのではないでしょうか。それもそのはず、この分野の基礎となる「量子力学」は、高校までのカリキュラムに入っていません。そのため今まで学ぶ機会がなかった方も多いと思いますので、今回はシリーズで、量子とは何か、量子力学とは何をするための学問なのか、生まれてきた歴史を振り返りながら説明してみたいと思います。

数式部分の詳細は極力出さずに進めていきますので、数学・物理の予備知識がない方もご安心ください!どうしても出てくる数式について、苦手な方はその部分だけ読み飛ばしていただいても大丈夫です。

それでは始めましょう。今回は、量子力学の黎明期、どのように生まれたかについてお話します。

量子力学のはじまり-当時の物理学では説明がつかない現象-

量子力学は、1900年のマックス・プランクと呼ばれる研究者が注目した現象からはじまります。

マックス・プランク(1858 – 1947)

物質に光を与えると、熱エネルギーを帯びます。晴れている日に外に出かけると暖かく感じるのは、太陽光を浴びることでエネルギーを受けとっているからです。または、小学校の理科の実験で、太陽の光を虫眼鏡で集めて紙を燃やしたことを思い出す方もいるでしょう。バケツに水が注がれるように段々と熱が蓄積されて、一定の基準を超えるとエネルギーが溢れ、燃え上がります。例え弱いエネルギーであっても、熱が逃げないように浴びせ続ければ、いつかは必ず燃える。そう考えられていました。

虫眼鏡で光を集めることで、木を燃やすこともできます。(引用:http://simplyenjoymaadi.com/art/heights-of-talent-man-use-sun-light-and-magnifying-glass-for-his-art-creations/)

しかし、この考え方では説明できないことが起こったのです。19世紀に発見された光電効果と呼ばれる現象です。この現象は金属に光を当てたときに、弱い電流が流れるというものです。この性質は、現代でどこにでもある自動ドアに応用されており、人間が近づいたときに微弱な電流が流れ、扉が開く仕組みになっています。

光電効果。金属に光を照射すると、電流が流れる。

ドイツの物理学者レーナルトの研究結果により、光電効果には不思議な特徴があることが分かりました。光電効果が起きるかどうかは光の色によって異なり、ある色では電流が流れ、他の色では流れないという非常に不可解な現象が見られたのです。

色によって電流を流すものと、流さないものがある。

光によるエネルギーが段々と金属に溜まり、一定量を超えたときに電流が流れると考えると、ある色の光をいくら当てても電流が流れないことの説明ができません。さらに、光の色によって異なる振る舞いを見せるのも全く不可解です。色によってはわずか少量の光で電流を流す一方で、いくら強度を上げて長時間照射しても電流を流さない色があるという事実は、当時の物理学であるニュートンによる古典物理学と、マクスウェルとファラデーによる電磁気学のエネルギーに関する理解ではうまく説明することができませんでした。電流を流すかどうかを、エネルギー以外の何かで決めているとしか思えない結果となったのです。

色によっては少しの光で電流を流すのに、他の色だといくら強い光を長時間当てても電流が流れない。

この謎が、量子力学という新たな学問が幕を開けるきっかけとなります。

1905年、量子力学の誕生

この謎を解き明かしたのは、誰もが知る天才アルベルト・アインシュタインです。アインシュタインは1905年に「光の量子論」というタイトルで論文を発表しました。量子力学研究の、まさに端緒となった論文です。

アルベルト・アインシュタイン(1879-1955)

アインシュタインが光電効果を説明するために考えたのが、「エネルギーは連続的ではなく、粒状になっている」という仮説です。エネルギーの大きな粒の光、つまり波長の短い青などの光は光電効果を引き起こして電流を流し、エネルギーの小さな粒の光、波長の長い赤などの光はいくら当てても電流が流れないということで説明することができます。

光を粒の集まりとみなし、1粒あたりのエネルギーが大きければ電流が流れ、小さければいくら集まっても流れない。

例えば雨に降られるとき、霧雨が何時間降っても痛みを感じることはないでしょう。一方、大粒の雨、または氷(ひょう)に降られると一粒でも激痛ですし、車を凹ませるほどの威力になります。つまり重要なのは「エネルギーの総量」ではなく、「1粒あたりのエネルギー」が電流を流すかどうかを決めていることを突き止めたのです。これが量子力学について人類が最初に突き止めた性質、「粒子性」です。

アインシュタインは光を「無数に降り注ぐ粒」と捉えて、光電効果を見事説明しました。ですが、彼の相対性理論ブラウン運動などの功績と比べて、当時この論文は研究者たちの失笑を買うだけでした。ベルリン大学教授のポストに推薦された時も、推薦状には「光の量子論は若気の至りみたいなものだから、多めに見てあげてください」と書かれる始末で、ほとんどの学者にまともに扱われませんでした。そんな教授たちがアインシュタインにノーベル賞を贈るのは、それからわずか数年の話…ということで次回に続きます。

そんなプランクとアインシュタインによって発見された量子力学における最初の公式を紹介して、本稿を締め括ろうと思います。エネルギーの粒の最小単位、いわばエネルギーの「小箱」の寸法を計算する式です。

\(E = h \cdot ν\)
\(E\):エネルギー
\(h\):プランク定数
\(ν\):振動数

この数式について細々補足する野暮はここではやめておきます。ご興味がある方は量子力学を勉強してみるといいでしょう。数学や物理学についての学習のご相談は、こちらからお気軽にご利用いただけます。

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また、量子力学の歴史について詳しく知りたい方は、こちらの本が分かりやすく纏まっている名著です。長い物理学の歴史を一冊の本にまとめた世界的なベストセラーで、量子力学については第4章から詳しく紹介しています。

それではまた。

<文/岡崎 凌>
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