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日本における統計学の歴史:第1回-日本最古の「データ」、庚午年籍と古代の計数

公開日

2025年11月22日

更新日

2025年11月27日

はじめに:データ活用は“国家の生存戦略”として始まった

以前に「統計でたどる人類と経済の発展史」というブログで、人類がデータをどのように使い発展してきたのかを書きました。



今回は、さらに分けて我々の「日本」でどのように使われてきたのかを10回に分けて見ていきたいと思います。日本ではその源流をたどると、なかなかに早い段階で「データを集めて意思決定に使う」という発想が生まれていました。最古の記録とされるのが
庚午年籍(こうごねんじゃく/670年)。これは、日本で最初に“国家が全国規模で人の情報を収集し、保存し、活用しようとした台帳”です。
現代のビジネスでも「正確な顧客情報がなければ戦略は立たない」「データが揃わなければ打ち手がぶれる」という問題は日常的です。実は、同じ課題を1300年以上前の日本も抱えていました。庚午年籍の背景を知ると、その時代にデータがどれほど重要視されていたかがよく分かります。
「データを学んでおくことが、なぜ現代の個人と企業の競争力につながるのか」が自然と見えてきます。


庚午年籍とは何か?:日本最古の全国戸籍

庚午年籍(670)は、天智天皇の時代に作られた日本最古の全国的な戸籍で、後の律令国家の基盤となる重要な台帳です。
庚午年籍の目的は明確でした:
・人口と世帯の正確な把握
・兵役や租税の負担を平等化するため
・国家が必要とする労働力・徴税モデルの最適化
これはまさに、現代で言うところの(例えば企業が顧客データを元に需要予測を行うような)
「人のデータベースを整備し、政策/施策を最適化する」行為にほかなりません。

図1:庚午年籍の模式図(概念)

※図はイメージで作成


戸籍 → 計帳 → 租税 古代国家の「データパイプライン」

庚午年籍以降、律令国家の情報システムはより洗練されていきます。特に注目すべきは「データが流れる構造」があったことです。

1.戸籍(こせき):個人情報の基本データベース
2.計帳(けいちょう):上記をもとに納税・労役の割り当てを計算
3.租税システム:計帳を根拠に現場へ課税を指示

これはまさに、現代企業で言えば──
・CRM/MAに顧客データを登録し
・そのデータをもとにスコアリングし
・営業やマーケ施策に落とし込む
という「データドリブン運用」と同じ仕組みです。

図2:古代日本のデータフロー(概念)


なぜ国家は“データを永久保存”しようとしたのか?

庚午年籍は「永久保存」が命じられた特別な台帳でした。
「永久保存」とされたのは、当時の統治体制において人口把握が最重要課題だったためであり、政治的にも行政的にも不可欠なデータだったことを意味します。

これが意味するものは大きいです。
・データがなければ国家運営は成り立たない
・正確性と継続性は、制度の信頼性を左右する
・データの改ざん防止は統治の根幹に直結する

ここには、
「データこそ国のOSである」
という思想がすでに芽生えていました。現代の企業でも同じで、データの質が低ければ施策の精度も下がります。1300年前の国家が抱えた課題は、今を生きる私たちの課題そのものです。


古代の“データ課題”は、ビジネスの課題と同じ

庚午年籍の誕生背景を読み解くと、現代のビジネス課題と非常によく似ています。
・個人データの更新が追いつかない(→現代もCRMで発生)
・地域ごとに記録方式がバラバラ(→企業の部門間データ不整合)
・誰が責任者で、どこが保管するかが問題に(→データガバナンス問題)

データの正確性・標準化・更新頻度。これを制した組織が“情報の優位”を取る。
これは1300年前から変わらぬ真理と言えます。


なぜ今、統計学を学ぶべきなのか?

ここまで読むと、次のことがはっきり見えてきます。
・データを集める行為には「思想」がある
・データの仕組みは、国家も企業も「共通の課題」を持つ
・歴史を知ると、データ活用の本質がクリアになる

そして最大のポイントはこれです。
統計学は、時代を超えて「意思決定の質」を高めてきた学問である。

古代国家が台帳を使って徴税や軍事を最適化したように、現代の私たちも統計学を理解することで、マーケティング、経営判断、戦略立案の精度を飛躍的に高められます。

統計学は「数学好きのための専門分野」ではありません。
ビジネスで勝つための“判断力の武器”であり、むしろ誰もが身につけるべき“共通言語”です。



次回予告

次回は、データ活用がさらにアップデートされる戦国〜安土桃山時代の「太閤検地」に移ります。ここで日本は、初めて「全国共通のデータ基準」を整備します。それは現代のメタデータやデータ標準化の源流そのものです。
どうぞお楽しみに。

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