代表値① 平均と中央値-【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月8日
更新日
2025年11月5日
この記事の主な内容
はじめに:数字を一言でまとめる「代表値」
難しく思われる統計学をやさしく解説するシリーズですが、今回は全2回に分けて「代表値」を取り上げます。その第1回は平均と中央値です。営業報告や経営資料で目にする「平均売上」「平均年収」。便利な指標ですが、平均だけに頼ると実態を誤解することがあります。そこで知っておきたいのが「中央値(ちゅうおうち)」。本記事では、代表値の基本である平均と中央値を、ビジネスの例を使ってやさしく解説します。
平均とは:全体を“ならす”数字
平均(算術平均)は「合計 ÷ 個数」で求めます。たとえば、営業5名の月間売上が 100万・120万・130万・150万・300万円だったとします。合計は800万円、人数は5名なので平均は160万円。
ここで注意したいのは、300万円という“外れ値(極端に大きい値)”の影響です。多くの人は100〜150万円のレンジにいるのに、平均だけを見ると「うちの営業は160万円が標準だ」と勘違いしがち。平均は、数値全体を“ならして”見せる反面、外れ値に引っ張られやすい特性があります。
| 営業担当 | 売上(万円) |
|---|---|
| A | 100 |
| B | 120 |
| C | 130 |
| D | 150 |
| E | 300 |
| 合計 | 800 |
| 平均 | 160 |
平均の要点
■ 計算が簡単で比較に使いやすい
■ 外れ値に弱く、実感からズレることがある
■ 平均年収・平均家賃、平均客単価などでよく使われる
中央値とは:真ん中の人の値
中央値は、データを小さい順に並べたときの“真ん中”の値です。先ほどの5名の売上を並べると 100→120→130→150→300。真ん中は130万円、これが中央値です。300万円という外れ値があっても、中央値はほとんど動きません。そのため「典型的な一人の値」を知りたいとき、中央値は実態に近い判断材料になります。

中央値の要点
■ 外れ値の影響を受けにくく、現場の肌感に近い
■ 偶数個のデータでは中央の2つの平均をとる
■ 年収・地価・家賃など“偏りやすい”分布で有効
平均と中央値、どちらを見る?
結論は「両方見る」が正解です。平均は“全体のバランス”が分かり、中央値は“典型的な位置”が分かります。たとえば社員30名の年収で、平均500万円・中央値420万円なら、「高年収が一部にいて平均が押し上げられている」可能性が高いと読み取れます。

採用広報で数字を出すなら中央値、予算編成で総額感を把握するなら平均、という使い分けが役立ちます。
ビジネスでの具体シーン
■ 給与レンジの見直し:平均だけでなく中央値も確認し、相場感に合っているか判断する。
■ 家賃やオフィス賃料の相場比較:平均が高くても、中央値を見れば“実際に多い価格帯”が分かる。
■ ECの注文金額:超高額注文がたまに入る業態では、平均より中央値・最頻値(いちばん多い値)で顧客像をつかむ。

かんたんチェックリスト
□ 外れ値に引っ張られていないか?(平均の弱点を意識)
□ 典型的な値は何か?(中央値の確認)
□ 伝えたい相手は“総額感”か“実態感”のどちらを知りたい?(平均と中央値の使い分け)
まとめ
平均は“全体像のならし”、中央値は“真ん中の代表”。両方を組み合わせて見ることで、数字の物語が立体的に見えてきます。つまり、ひとつの指標だけではなく複数の視点を持つことが、統計を正しく読む力につながります。実務では「平均で総額感をつかみ、中央値で実態感を確かめる」という使い分けが効果的です。
さらに次回は、もう一つの代表値「最頻値(モード)」を取り上げ、平均・中央値・最頻値の上手な使い分けを具体例で紹介します。
<文/綱島佑介>





