時系列データの変化を読み解く-第3回:指数化の考え方【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月21日
更新日
2025年12月2日
この記事の主な内容
はじめに:基準をそろえると“見え方”が変わる
第1回では「変化の流れ」を、 第2回では「変化の速さ」を見てきました。
今回はその集大成として、異なるデータを同じ基準で比べる「指数化」を学びます。
売上、アクセス数、物価、人口――どれも単位も桁も違う。
しかし、基準(=100)をそろえるだけで、“どちらがどれくらい伸びているか”が一目で分かるようになります。
1. 指数とは?
指数とは、ある基準時点を100としたときに、その後の変化を比率で表すものです。
たとえば、2015年の売上を100とすると、2020年に150になった場合:
指数 =(150 ÷ 100)×100 = 150
つまり、「2015年から50%増加した」という意味です。
このように指数は、異なる規模のデータでも比較を可能にする“共通の物差し”です。
【折れ線グラフ例】売上指数の推移(2015年=100)
※2015年を100とした売上指数の推移。
各年の売上を同じ基準で比較すると、成長のスピードや勢いが一目で分かります。
実際の金額ではなく“比率”で見ることで、異なる規模の企業や商品も公平に比較できます。
2. 異なるデータを比較してみよう
例えば、A社とB社の売上推移を比べるとします。
A社はもともと1億円、B社は5,000万円の売上規模。数字だけを見るとA社が圧倒的ですが、
それぞれ2018年を100として指数化すると、意外な結果が見えてきます。
| 年度 | A社 売上(万円) | B社 売上(万円) | A社 指数 | B社 指数 |
|---|---|---|---|---|
| 2018年 | 10,000 | 5,000 | 100 | 100 |
| 2019年 | 10,800 | 5,600 | 108 | 112 |
| 2020年 | 11,500 | 6,000 | 115 | 120 |
| 2021年 | 12,000 | 6,800 | 120 | 136 |
| 2022年 | 11,800 | 7,500 | 118 | 150 |
| 2023年 | 11,500 | 8,000 | 115 | 160 |
※A社・B社ともに2018年を基準(=100)として指数化。
A社は安定成長、B社は規模は小さいが伸び率の高い成長型であることがわかります。
・A社:2018→2023で115(=15%成長)
・B社:2018→2023で160(=60%成長)
つまり、B社の方が成長率は高いのです。
これが「指数化」の力。
絶対値ではなく“変化の比率”を見ることで、規模の違いを超えた比較が可能になります。
3. 名目値と実質値の違い
ここで少し踏み込んで、物価の影響を考えてみましょう。
例えば売上が10%増えたとしても、物価が5%上がっていたら、実質的には5%しか伸びていないことになります。
これを補正したのが「実質値(real value)」で、もとの数値(名目値)を物価指数で割ることで求めます。
実質値 = 名目値 ÷ 物価指数 ×100
【折れ線グラフ例】名目値と実質値の比較
実質値
※青線は名目値(物価上昇の影響を含む)、緑の破線は実質値(物価の影響を除いた値)。
名目値は上昇していても、実質値の伸びが鈍化していれば、“見かけの成長”に注意が必要です。
名目値が右肩上がりでも、実質値が横ばいなら「数字上の成長」でしかない。
経営判断では、この“実質の伸び”を読み取ることが非常に重要です。
4. 重みをつけた指数(ラスパイレス指数・パーシェ指数)
現実のデータでは、単純に平均を取るだけでは不十分な場合があります。
商品の構成や比重が変わるからです。
例えば、以下のようなデータを考えてみましょう:
| 品目 | 価格(前年) | 価格(今年) | 販売数量 | 価格変化率 |
|---|---|---|---|---|
| A商品 | 100円 | 110円 | 100個 | +10% |
| B商品 | 200円 | 190円 | 300個 | −5% |
| 単純平均(AとBの平均) | +2.5% | |||
| 加重平均(販売数量で重み付け) | ±0.0%(ほぼ横ばい) | |||
※A商品の価格は上昇しましたが、数量の多いB商品の値下げが影響し、全体ではほぼ変化なし。
これが「重み付き平均」で見る現実の変化です。
単純平均では「+2.5%」ですが、数量の多いB商品の影響を考慮すると、
実際の全体価格はほぼ横ばい。
このように、“重み”を考慮した指数が「ラスパイレス指数」「パーシェ指数」です。
・ラスパイレス指数:基準年の数量で重み付け
・パーシェ指数:比較年の数量で重み付け
物価やコスト分析などで頻繁に使われる重要な指標です。
5. グラフで見る“基準をそろえる”効果
指数化の利点は、異なるデータを同じスケールで並べられることです。
例えば「広告費」と「売上指数」を同じグラフに重ねてみると、
「広告を増やした月に売上も伸びている」など、関係性が見えてきます。
【折れ線グラフ例】売上指数 × 広告指数の推移(2018年=100)
広告指数
※両データとも2018年を100とした指数換算。
広告指数(オレンジ線)が上昇した月に、売上指数(青線)も上向いていることが分かります。
同じ基準で比較することで、広告活動と売上効果の関係が視覚的に捉えられます。
💡ポイント: 比較対象を同じ基準(=100)でスタートさせることで、
データの“勢いの違い”や“影響関係”が直感的にわかるようになります。
6. まとめ:指数化は“共通言語”
・指数化は異なる単位・規模のデータを比較するための共通基準。
・名目値と実質値を区別することで、見かけの成長に惑わされない。
・重み付き指数を使えば、実際の市場構造変化も反映できる。
指数化は、単なる数学的な処理ではなく、「データを公平に見るための翻訳」です。
データの大小ではなく、“どれだけ変わったのか”を読み解く目を養うことが、
これからのビジネス分析に欠かせない力となります。
総括:3回を通して見えてくる“データを読む力”
このシリーズでは、3つの視点で時系列データを学んできました。
・第1回:変化の流れを読む … 折れ線グラフや移動平均で、データのトレンドをつかむ。
・第2回:変化の速さを読む … 増減率や年平均成長率で、勢いとスピードを理解する。
・第3回:変化を公平に比べる … 指数化によって、異なるデータ同士の比較を可能にする。
この3つを組み合わせると、数字は単なる結果ではなく、「未来の兆しを示すサイン」になります。
ビジネスの成長、顧客行動、社会の変化を読むうえで、時系列分析は最も実践的な統計のひとつです。
データを見る目を持てば、「過去→現在→未来」のつながりが見えてきます。
これからの時代、“数字を読む力”はすべてのビジネスパーソンにとって欠かせないスキルとなるでしょう。
<文/綱島佑介>





