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時系列データの変化を読み解く-第2回:増減率の落とし穴と使い方【統計学をやさしく解説】

公開日

2025年10月20日

更新日

2025年12月2日


はじめに:数字の“速さ”を読む力


第1回では、数字の“流れ”を折れ線グラフや移動平均で見る方法を紹介しました。
今回はその一歩先、「どれくらい変わったか」=増減率 の世界です。

売上やアクセス数が「増えた・減った」という事実だけでなく、
「どのくらいのスピードで変化したのか」を読む力を身につけましょう。


1. 増減率とは?

増減率とは、基準となる値からどれだけ増えた(または減った)かを割合で表すものです。
式にすると:

増減率 = (新しい値 − もとの値) ÷ もとの値 × 100(%)

たとえば、売上が100万円から120万円に増えた場合:

(120−100)÷100×100=20%増

つまり、単に「20万円増えた」よりも、「20%伸びた」と言う方が、
相対的な伸びの大きさを伝えることができます。

増減率比較表(例:前期比・前年比)
売上額(万円) 前月比(%) 前年比(%)
1月 500
2月 550 +10.0% +5.8%
3月 600 +9.1% +7.1%
4月 570 −5.0% +3.6%
5月 650 +14.0% +9.2%

※「前月比」は直前の月との比較、「前年比」は前年同月との比較を示します。
増減率を見ると、一時的な落ち込みや上昇の“スピード”が分かります。


2. 「増加率」と「減少率」は対称ではない

意外と多くの人が誤解しているのが、「増えた」と「減った」の関係です。

例えば、お店の売上が100万円から150万円に増えたら「50%増」です。ところが、翌月に150万円から100万円に戻った場合は、「50%減」ではありません。

(100−150)÷150×100 = −33.3%

つまり、同じ50万円の差でも「上がるスピード」と「戻るスピード」は違うのです。

もう少し身近な例でいうと、時給1,000円のバイト代が1,500円になったら50%アップ。でも、その後1,000円に戻ったときの下がり幅は33%。上がったぶんだけ“下がるときはゆっくり”に見えるのです。

このように、増加と減少は対称ではないため、「50%上がって50%下がったから元に戻った」という考え方は誤りです。
実際には元に戻らず、減少率のほうが小さく見えるけれど、損失は元よりも大きいということを覚えておきましょう。


3. 年平均成長率(CAGR)の考え方

企業の成長率や投資のパフォーマンスを語るときによく出てくるのが、CAGR(年平均成長率)です。
これは、毎年バラバラに増減するデータを「一定の成長率」に換算して見る方法です。

CAGR =(最終値 ÷ 初期値)^(1 ÷ 年数) − 1

たとえば、売上が100万円から5年で200万円になった場合:

(200 ÷ 100)^(1 ÷ 5) − 1 ≒ 14.87%

つまり、「5年間で毎年約14.9%ずつ成長しているのと同じ効果があった」という意味です。

5年間の売上推移と年平均成長率(CAGR)比較
年度 売上額(万円) 前年比(%)
2019年 1,000
2020年 1,150 +15.0%
2021年 1,300 +13.0%
2022年 1,550 +19.2%
2023年 2,000 +29.0%
5年間の平均成長率(CAGR) +14.9%

※CAGR(Compound Annual Growth Rate)は「一定の年率で成長したと仮定した場合の平均成長率」を示します。
売上は5年間で約2倍となり、毎年約14.9%ずつの成長ペースに相当します。

このCAGRを使うと、途中で上下があっても“全体の傾向”を比較しやすくなります。
マーケティングでも「市場の平均成長率」「顧客単価の年成長率」などによく登場します。


4. 累積成長と指数の関係

「前年比120%」が3年続くとどうなるでしょう?
単純に「3年で360%」ではなく、掛け算になります。

1.2 × 1.2 × 1.2 = 約1.73倍

つまり、120%成長が3年続くと、最初の1.73倍になります。
これを「指数的成長(exponential growth)」と呼びます。

【折れ線グラフ例】指数的成長(前年比120%の成長が続いた場合)

初年度2年目3年目4年目5年目6年目

※前年比120%の成長を続けた場合のイメージ。
1.2倍の掛け算が積み重なることで、線は直線ではなくカーブを描いて上昇します。
5年で約2.5倍、10年では6倍近くになる“指数的成長”の特徴です。

経済やマーケティングの世界では、「前年比」が続くデータを扱うことが多く、
累積の掛け算効果を理解しておくことが重要です。

💡ポイント: 増加率の連続は“加算”ではなく“乗算”。
長期の比較では、掛け算ベースで考えると正しい伸びを把握できます。


5. グラフで見る「スピードの違い」

増減率をグラフ化すると、“勢い”が見えるようになります。
例えば次のような例を見てみましょう。

【折れ線グラフ例】売上の推移と増減率の変化

1月2月3月4月5月6月7月

売上(実数) 
増減率(%)

※青線は売上金額、赤の破線は増減率(前月比)を示します。
売上が上昇していても、増加の勢い(増減率)が下がると、成長が鈍化しているサインとなります。

・青線:売上金額の推移(実数)
・赤線:増減率の推移(変化率)

売上が安定していても、増減率を見ると“勢いが鈍化している”ことがあります。
つまり、数字のスピードを見ることは、未来の変化を察知することにつながります。



6. まとめ:増減率は“数字のスピードメーター”

・増減率は、変化の「速さ」を示す指標。
・増加率と減少率は対称ではない。
・長期の成長はCAGR(年平均成長率)で見る。
・前年比の連続は加算でなく乗算で考える。

数字のスピードを読む力を持つと、単なる結果分析から一歩進み、
“これからどう動くか”を考えられるようになります。

次回(第3回)は、異なる時系列を比較できるようにする「指数化」の考え方を紹介します。
基準をそろえることで、業界・商品・期間を超えたデータの見方が広がります。

<文/綱島佑介>

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