疑似相関シリーズ 第6回|リモートが増えるほど、チャットが増える?
公開日
2026年1月11日
更新日
2026年1月27日
この記事の主な内容
いきなり結論
増えたのは仕事量じゃない。記録(ログ)が残る量かもしれない。
「リモート勤務が増えるほど、チャットの送信数が増える」
この相関、ほぼ確実に見えます。
すると、つい言いたくなる。
「リモートはコミュニケーションが増えすぎて非効率なのでは?」
でもこれは、疑似相関の王道パターンです。
対面なら口頭で済んだ会話が、リモートだとチャットに置き換わる。
つまり増えたのは“やりとり”ではなく、やりとりがデータとして残る割合です。
相関はヒント。因果は証拠。
今日は「ログが増える=仕事が増えた」と誤解しないための話をします。
1. なぜ「リモートが増えるほどチャットが増える」が起きるのか
オフィスで働いているときの会話を思い出してください。
・「ちょっといい?」(5秒)
・「この資料、ここ直して」(10秒)
・「OKです」(3秒)
これ、ほとんどデータに残りません。
一方、リモートだと同じ会話がこうなる。
・「ちょっといいですか?」
・「この資料のここ直してもらえます?」
・「了解です!」
全部チャットに残る。
だから、データ上はこう見えます。
リモートが増えるほど、チャットが増える
ここで危ないのが、次の飛躍。
「チャットが増える=仕事が増えた/非効率になった」
そうとは限りません。
多くの場合、起きているのはこれです。
対面の口頭コミュニケーションが、チャットに置き換わっただけ(測定のクセ)
2. 用語を“日本一やさしく”整理する
今回の主役は「測定のクセ」と「交絡因子」です。
相関(correlation)
Aが増えるとBも増える(または減る)という「いっしょに動く」関係。
リモートとチャットは、同時に増えやすい。
因果(causation)
Aが原因でBが起きるという関係。
相関があるだけで「リモートは非効率」とは言えません。
測定のクセ(観測バイアス)
ここがポイント。
対面の会話はデータになりにくいが、チャットは必ずデータになる。
つまり、
・仕事量が増えた
ではなく
・見えるログが増えた
という可能性が高い。
交絡因子(confounder:こうらくいんし)
リモートとチャットの両方に効く“黒幕”もいます。
・プロジェクトが炎上している
・仕様変更が多い
・新人が増えて質問が増えた
・新ツール導入で連絡が増えた
こういう状況だと、リモートでなくてもチャットは増えます。
3. 「これは本当? 嘘?」をちゃんと分ける
今回も2つに分解します。
Q1:相関は本当?
本当です。
リモートが増えるほど、チャットが増える現象は普通に起きます。
Q2:因果(リモートが非効率だからチャットが増える)は本当?
嘘かもしれない。
少なくとも相関だけでは、因果は言えません。
むしろ疑うべきは次。
・対面の会話がチャットに置き換わった(測定のクセ)
・黒幕(炎上・新人増・仕様変更)が両方を増やしている
4. ビジネスでの“実害”:ログが増えたせいで「働きすぎ」に見える
チャットが増えると、よく起きる誤解があります。
・「コミュニケーションが増えすぎてる」
・「集中できてない」
・「仕事が遅くなってる」
でも、ログが増えること自体は悪ではありません。
むしろ、
・決定の経緯が残る
・情報が共有される
・引き継ぎが楽になる
など、良い面も大きい。
つまり問題は、チャットの量ではなく、
チャットが“必要以上に往復している”こと
かもしれません。
5. 今日から使える:測定のワナチェック「3つだけ」
初心者でも迷わないよう、3つに絞ります。
チェック①:チャットが増えたのは「置き換え」では?
対面が多い人は「口頭」が多い。
リモートが多い人は「チャット」が多い。
これは仕事量の違いではなく、記録の残り方の違いかもしれません。
チェック②:チャットの中身は“往復”が増えている?
量より質。
・1回で終わる確認が増えた
・同じ質問が何度も来る
・仕様が曖昧で議論が長い
こういう「往復」が増えているなら、改善ポイントは“リモート”ではなく“設計”です。
チェック③:成果に近い指標は悪化している?
チャット数ではなく、成果に近い指標を見ましょう。
・意思決定までの時間
・手戻り回数
・納期遵守率
・問い合わせの重複率
ここが悪化していないなら、チャット増=非効率とは言いにくい。
6. 実務の最小アクション:「チャットを減らす」より「往復を減らす」
最小手を3つ紹介します。
最小手①:質問のテンプレを作る(往復を減らす最強手)
チャットが増える原因の多くは「情報不足の質問」です。
・目的は何?
・いつまでに?
・どのデータを見た?
・望むアウトプットは?
この4点が揃うテンプレを作るだけで、往復が減ります。
最小手②:「決める部屋」を分ける
雑談・相談・意思決定が同じチャンネルにあると、ログが膨れます。
・雑談
・相談
・決める(決定事項だけ)
を分けるだけで、必要なチャットだけが残ります。
最小手③:決定事項を1行でまとめる習慣を作る
チャットが増えるのは、決定が曖昧で戻るから。
・結論:Aでいく
・理由:◯◯
・次の担当:◯◯
これが1行でも残ると、後から読み返す回数が減ります。
まとめ
・「リモートが増えるほどチャットが増える」という相関は出る(これは本当)
・でも「リモートが非効率だからチャットが増える」という因果は言えない(これは嘘かもしれない)
・正体は、対面会話がチャットに置き換わった“測定のクセ”+黒幕の可能性
・改善は「チャットを減らす」ではなく、往復を減らす設計が効く
最後に一言。
ログが増えるのは悪じゃない。迷子になるログが悪い。
次回予告:第7回「満足度が高いのに、解約が増える?」
“平均”が現場をだます、シンプソンのパラドックス入門をやります。





