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「統計的問題解決の方法」-第4回:分析の基本ステップ【統計学をやさしく解説】

公開日

2025年9月24日

更新日

2025年10月14日

第1回で全体像をつかみ、第2回で問い(課題設定)を磨き、第3回で“良いデータ”を集めました。では、集めたデータをどう料理すれば意思決定に使える形になるのでしょうか。多くの人は「分析=難しい数式」と思いがちですが、実務で最も効果が大きいのは整理して、見える化することです。

さらに、本記事ではExcelを基本ツールとして使うことを前提に解説しています。特別なソフトを導入しなくても、Excelさえあれば十分に実務で活かせるレベルの分析が可能です。


今回は、一般の方でもすぐ実践できる単純集計 → クロス集計 → グラフ化の3ステップを、丁寧な解説と実例でお届けします。


分析の起点は“問い”の再確認

分析を始める前に、もう一度だけ問いを言葉にするのが重要です。

例:「直近1か月の売上低下は客数客単価のどちらが主因か」。

問いがハッキリしていれば、集計の迷いが減り、ムダな作業が激減します。

小さな仮説を添える

仮説は“仮の答え”で充分です。

▶ 平日の昼が弱いのでは?
▶ 若年層の来店頻度が下がっていそう

など仮説があると、後述のクロス集計で“確認すべき切り口”が見つかります。


ステップ0:分析前の下ごしらえ(超重要)

料理に下ごしらえがあるように、分析にも前工程があります。ここを丁寧にやるだけで、後の見える化が一気に楽になります。

▶ 列名を意味が伝わる日本語にする(例:qty →「数量」, ts →「日時」)
▶ 日付は「YYYY-MM-DD」形式にそろえる/時刻は「HH:MM」にそろえる
▶ 金額の税込/税抜を統一(混在すると単価の比較が壊れます)
▶ 欠損は「空欄のまま」か「0」かを決めて一貫させる
▶ 型の確認:文字列と数値が混じっていないか(Excelの「文字列の数値」問題)

たったこれだけで、ピボットテーブルやグラフが崩れにくくなります。


ステップ1:単純集計 ― まず“全体像”をつかむ

単純集計は、合計・平均・最大・最小・割合といった要約の数字を出すこと。難しさはゼロですが、ここで全体の輪郭をつかめるかが勝負です。

実例1:満足度アンケート

質問:「この店舗に満足していますか?」/回答10人:満足7・不満3。

▶ 合計:10件
▶ 満足比率:7/10 = 70%
▶ 不満比率:3/10 = 30%

結果は一目瞭然。ここから「不満の理由」の深掘りに進みます(自由記述の分類など)。

実例2:週次売上の把握

ある店舗の1週間の売上(万円):月10, 火11, 水10, 木12, 金13, 土20, 日19。

▶ 平日合計:10+11+10+12+13 = 56(万円)/平日平均:56/5 = 11.2(万円)
▶ 週末平均: (20+19)/2 = 19.5(万円)
▶ 週末は平日の 約1.7倍(19.5 ÷ 11.2 ≈ 1.74)

この時点で「土日が強い」「平日をどう伸ばすか」が論点になります。

ポイント:単純集計は“論点の絞り込み”。数字を丸めて語る(例:1.7倍)と、会議で伝わります。


ステップ2:クロス集計 ― “差がどこにあるか”を見つける

クロス集計は、2つ以上の切り口で集計すること。問いに対して原因のあたりをつける作業です。

実例:曜日 × 時間帯で売上を見る

▶ データ:1時間単位の売上と来客数
▶ やること:曜日(行)×時間帯(列)の表にし、合計売上を並べる
▶ 見え方:平日昼(11–14時)だけ売上がガクッと落ちている…などの“谷”が浮かび上がる

解釈の例:「近隣オフィスのランチ需要を取り切れていない」→ 経営的論点は「平日昼の対策」です。

2×2の最小クロスで行動へ

▶ 切り口:クーポン × 来店ありなし
▶ 見る指標:来店率・平均客単価
▶ 結論例:クーポン有りで来店率は上がるが単価が下がる → “来店率×単価”の売上貢献で評価

クロス集計は“差の地図”。差が見つかったら、なぜ差が出たのかを仮説→検証の順で詰めます。


ステップ3:グラフ化 ― 視覚で“意思決定の瞬間”を作る

グラフは相手の脳内に素早く像を結ばせるための道具です。種類の選び方だけ押さえれば難しくありません。

どのグラフを選ぶ?

▶ 棒グラフ:カテゴリ間の比較(曜日別売上、店舗別来客数)
▶ 折れ線:時間の推移(週次・月次トレンド)
▶ 円グラフ:全体に占める割合(構成比)。3つ程度までが見やすい
▶ 積み上げ棒:構成比の推移
▶ 散布図:2変数の関係(広告費と売上)

よくある落とし穴

▶ 棒グラフの縦軸を0から始めない(差が誇張されます)
▶ 3Dグラフや多色の乱用(読みにくく、誤解のもと)
▶ 注釈がない(何を示す図か1秒で分からない)

グラフの役割は“伝わったかどうか”。作り手の満足より、読み手の一瞬の理解を優先します。


物語で理解する:コンビニ店長のケース

状況:直近3か月、売上は-8%。店長は「広告を増やそう」と考えている。

1. 単純集計で全体像
▶ 客数は-10%、客単価は-1%。主因は客数減。
2. クロス集計で“差”を探す
▶ 曜日×時間帯を見ると、平日11–14時だけ客数が-20%。他の時間帯はほぼ横ばい。
3. グラフ化で共有
▶ 棒グラフで平日昼の落ち込みを可視化。会議で一目で合意形成。
4. 打ち手(仮説)
▶ 近隣オフィス向けに「ワンコイン日替わり弁当」「受け取り10分前モバイル予約」
▶ レジ前に“即決商品”(おにぎり+ドリンクのセット)を配置
5. 期待効果(概算)
▶ 平日昼の客数を1日あたり20人増やせれば、平均単価600円で+12,000円/日、月20日営業で+24万円/月
6. 検証設計
▶ 施策実施の2週間は、平日昼の客数・単価を毎日記録(実施前の平均と比較)。

ここまでの一連の流れに“難しい数式”は不要です。問い→単純集計→クロス集計→グラフ→打ち手→検証。これが現場と経営をつなぐ分析の王道です。


Excelでの実践ガイド(最短ルート)

ピボットテーブル

1. データ範囲内のセルを1つ選ぶ → 挿入 → ピボットテーブル
2. 行に「曜日」、列に「時間帯」、値に「売上」をドラッグ
3. 値の集計方法を「合計/平均」に切替えて眺める

グラフ

1. ピボットの表内を選択 → 挿入 → 「縦棒」「折れ線」
2. グラフタイトルに“問い”をそのまま書く(例:「平日昼の売上は本当に弱いか?」)
3. 凡例は必要最低限、縦軸は0起点にする

書き出すときのコツ

▶ 1枚サマリーは「結論→根拠→次の一手」の順で。
▶ 例:
・結論:売上低下の主因は平日昼の客数減
・根拠:曜日×時間帯のクロスで平日昼のみ-20%。
・次の一手:弁当セット+モバイル予約。2週間でAB検証。


よくある誤解と対処

Q. とにかく細かく切れば切るほど、真実に近づきますか?

A. 切り口を増やしすぎると、データが薄くなって偶然の上下に惑わされます。まずは大きな差を見る→必要な場所だけ深掘り、が鉄則です。

Q. グラフはカラフルな方が良いですか?

A. 目的は“早く正しく伝える”こと。基本は2~3色で十分。強調したい1系列だけ色を変えましょう。

Q. どのくらいの期間で評価すべき?

A. 変動が大きい指標(来店数)は2週間~1か月単位、季節要因が強いなら前年同週との比較もセットで見ます。



まとめ:分析は“意思決定のための翻訳”

▶ 単純集計で全体像を素早くつかむ
▶ クロス集計で差を発見する
▶ グラフ化で関係者に一瞬で伝える

これが、現場のデータを経営の言葉に翻訳する最短コースです。第5回は「結論と改善につなげる」。今回見つけた“差”を、仮説→施策→効果検証のサイクルにのせ、再現性のある改善プロセスへ落とし込みます。会議室の「良さそう」を現場の「成果」に変える方法を、具体例とテンプレートで解説します。

<文/綱島佑介>

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