「統計的問題解決の方法」-第2回:課題設定のしかた【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年9月22日
更新日
2025年10月14日
前回(第1回)では「統計的問題解決の全体像」を学びました。課題設定→データ収集→分析→結論という流れがあることを押さえましたが、その最初の一歩である課題設定を誤ると、その後の流れ全体が的外れになってしまいます。
データ分析を始めるときにありがちな失敗は、「とりあえずデータを見てみたけれど、結局何を知りたいのか分からない」という状態です。実は、統計的問題解決の成否は 最初の課題設定にかかっている といっても過言ではありません。問いが曖昧なままでは、どんなに高度な分析をしても、使える結論にはつながらないのです。そこで、今回は『課題設定』について、やさしく解説していきたいと思います。
この記事の主な内容
良い課題設定の条件
「良い課題設定」にはいくつかの条件があります。
- 具体的:あいまいな表現ではなく、誰が見ても同じ意味に取れること。
- 測定可能:数値や指標で確認できること。
- 改善に直結:結論を行動につなげられること。
例えば、「売上が低迷している」という漠然とした問いを「売上低迷の原因は 客数減 か 客単価減 か?」と具体化すれば、データ収集や分析の方向性が一気に明確になります。

事例紹介
シナリオ:コンビニ店長が売上低迷に悩んでいるケース
- 店長:「最近売上が落ちてるんだけど、原因が分からない…」
- スタッフ:「まずは売上を客数と客単価に分けてみましょう」
- 店長:「なるほど。客数が減っているのか、客単価が減っているのかを見ればいいんだな」
👉 このように問いを具体的に立てるだけで、分析の道筋が見えてきます。

似ているKPIツリーとロジックツリーについて
ここでよく混同されるのが、KPIツリーとロジックツリーです。見た目は似ていますが、目的と使いどころはまったく異なります。
1. KPIツリーとは
- 目的:最終的な成果指標(KPI=Key Performance Indicator、主要業績評価指標)を分解して、成果に影響を与える要因を整理する。
- 構造:「売上 → 客数 × 客単価」といった 数式的な分解 が基本。
- 活用場面:
- 売上目標を達成するために「どこを伸ばせば良いか」を探る
- 経営指標と現場指標のつながりを明確にする
- 特徴:数値で管理できる因数分解型のツリー。
例)
売上
├─ 客数(=来店頻度 × 新規顧客数)
└─ 客単価(=購入点数 × 商品単価)
👉 「どの数字を改善すればゴールに近づくか」が明確になります。
2. ロジックツリーとは
- 目的:原因や解決策を網羅的・論理的に整理する。
- 構造:Whyツリー(原因分析) と Howツリー(施策検討) が代表的。
- 活用場面:
- 売上低迷の原因を特定する
- 改善策を漏れなく考え出す
- 特徴:数値に限らず「考え方・要因」を広げるブレインストーミング型のツリー。
例)
売上低迷
├─ 客数減少(原因:競合増加、店舗立地、広告不足…)
└─ 客単価減少(原因:価格競争、購買意欲低下…)
👉 「なぜそうなったのか?」「どう改善できるか?」を体系的に洗い出せます。
3. 違いを一言でまとめると
- KPIツリー:数値を分解し、「どの数字を動かすか」を特定するツール
- ロジックツリー:要因や施策を網羅的に考え、「なぜ?どうする?」を整理するツール
💡イメージすると:
- KPIツリーは 数値での「因数分解」
- ロジックツリーは 思考の「マインドマップ」
まとめ
- 課題設定は統計的問題解決の第一歩。
- 良い問いが立てば、分析は半分成功している。
- KPIツリーやロジックツリーで整理すると、問いが明確になる。
しかし、課題設定を無視してしまうとどうなるでしょうか。例えば、ある企業が「売上が下がった」という事実だけに注目し、闇雲に広告費を増やした結果、実際には『客数』ではなく『顧客単価の低下』が原因だったため、改善効果がほとんど得られなかったというケースがあります。このように、問いがズレたまま進めてしまうと、時間もお金も無駄にしてしまうリスクが高まります。
だからこそ、まずは課題を正しく設定することが不可欠です。
次回は 「データ収集の基本」 に進みます。どんなデータを集めれば課題解決につながるのかを学び、その次の第3回では 「分析の基本ステップ」 を扱います。統計的問題解決の流れがさらにクリアになるはずです。
<文/綱島佑介>





