トレンドを見抜く「移動平均」のチカラ-第2回:季節変動をならして本当の成長をつかむ【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年11月11日
更新日
2025年11月5日
この記事の主な内容
はじめに:データの波には「リズム」がある
売上やアクセス数を見ていると、「なぜかこの時期はいつも高い」「この季節は毎年落ち込む」──そんな経験はありませんか?
これは偶然ではなく、季節変動(シーズナリティ)と呼ばれる周期的なパターンです。統計の世界では、データを理解するために「波のリズム」を見極めることがとても重要です。そして、この季節の影響をならしてトレンド(本当の成長)をつかむために役立つのが「移動平均」です。
データの波は3つの要素でできている
時系列データ(時間の流れに沿ったデータ)は、大きく分けて次の3つの要素で構成されています:
1️⃣ トレンド(Trend):長期的な上昇・下降の傾向
2️⃣ 季節変動(Seasonal Variation):1年や四半期ごとの周期的な波
3️⃣ 不規則変動(Irregular Variation):予測できない偶然的な揺らぎ
これらが混ざったままだと、「伸びているのか落ちているのか」が判断しづらくなります。移動平均は、特にこの「季節変動」と「不規則変動」をならし、トレンドの流れを見やすくするために使われます。

季節変動とは?-1年を通じて繰り返す「周期のクセ」
たとえば、次のような例を考えてみましょう。
・アイスクリームの売上:夏に上がり、冬に下がる
・アパレル:春・秋の新作時期に売上がピーク
・旅行業:連休や夏休みに急上昇
こうした季節的な波があると、単月のデータだけでは成長がわかりません。たとえば「8月の売上が前年より高い」のは成長か、それとも暑さのせいか?
ここで「季節の影響を取り除く」ために移動平均を使うと、本当のトレンド(成長傾向)が見えるようになります。
季節変動をならす:移動平均の使い方
実際の分析では、次のような手順で季節変動をならします。
1️⃣ データを月次または週次で並べる
2️⃣ 「3か月移動平均」または「12か月移動平均」を計算する
3️⃣ 元データと平均線を重ねてグラフ化する
これだけで、「季節の波」は穏やかになり、全体のトレンドが見えるようになります。
たとえば小売業の売上データで次のような結果が得られます:
・生データ:年末と夏にピークがあり、ギザギザした波形
・移動平均:なめらかに右肩上がりの線が描かれ、全体の成長が見える

Excelで季節変動をならす方法
Excelでも簡単に季節変動を視覚的に整えられます。
1. 売上データを月単位で入力
2. 「移動平均」機能を使う(データ分析ツール内にあり)
3. 期間を「12」に設定すれば、1年の変動を平均化
※「データ」→「データ分析」→「移動平均」を選択(分析ツールが表示されない場合はアドインの有効化が必要)。
季節変動を見抜くための3つの視点
ビジネスで移動平均を使うとき、次の3つを意識すると分析の精度がぐっと上がります:
🔹 1. 比較は「前年同月比」で見る
季節の影響を考慮するため、前年同月との比較を必ず行う。
🔹 2. トレンドは“滑らかさ”で確認
線がなだらかであればあるほど、ノイズが減り、信頼できる傾向線になる。
🔹 3. 外れ値を除外する勇気
一時的なキャンペーンなど、季節性以外の要因も平滑化することで、本来の傾向がより明確になる。
まとめ:移動平均で“季節のノイズ”を消す
季節変動をならすことで、単なる「波」ではなく、「流れ」が見えるようになります。
・一時的な上昇に惑わされず、長期の成長を見極められる
・KPIレポートの精度が上がる
・「季節要因」と「ビジネス成果」を切り分けられる
移動平均は、データを“静かに整える”魔法のツールです。派手な分析ではありませんが、最も確実に「真の成長」を見抜く力をくれます。
次回: 第3回「3か月?6か月?期間設定でトレンドは変わる」へ続きます。





