クロス集計とは?-第2回:平均の罠と構成比のチカラ【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月17日
更新日
2025年12月2日
この記事の主な内容
はじめに:平均が“ウソ”をつくことがある?
「平均値は便利だけど、なんだか現実と合わない」――そんな経験をしたことはありませんか?
実は、平均値には“錯覚”を生む落とし穴があります。
クロス集計を使うと、その“平均の罠”を簡単に見抜くことができるのです。
今回は、「構成比」を軸にデータを読む力を鍛えながら、ビジネスで実際に起こる“平均の誤解”を具体的に解説します。
平均値の落とし穴:全体の数字に騙される
例えば、次のような顧客満足度のデータがあったとします。
【平均値だけで見た顧客満足度(例)】
| 年代 | 満足度(平均点) |
|---|---|
| 20代 | 3.8 |
| 30代 | 3.5 |
| 40代 | 3.6 |
| 全体 | 3.7 |
※バーの長さは満足度の高さを示します(最大5点満点換算)
| 年代 | 満足度(平均点) |
|---|---|
| 20代 | 3.8 |
| 30代 | 3.5 |
| 40代 | 3.6 |
| 全体 | 3.7 |
一見すると、「全体の満足度は上がっているから良い」と判断したくなります。
しかし、これを年代別の構成比で見てみると、まったく違う現実が見えてきます。
構成比で見ると、数字の裏側が変わる
顧客数の割合が変わっていたらどうでしょう?
| 年代 | 満足度 | 構成比(前年) | 構成比(今年) |
|---|---|---|---|
| 20代 | 3.8 | 20% | 40% |
| 30代 | 3.5 | 50% | 40% |
| 40代 | 3.6 | 30% | 20% |
全体の平均が上がって見えるのは、「満足度の高い20代の比率が増えたから」。
つまり、構成比の変化が平均を押し上げているだけなのです。
⚡意外な発見:「平均が良くなった」=「すべての層が良くなった」ではない!
こうした“見かけの改善”は、ビジネスレポートやKPI評価でも頻繁に起こります。
だからこそ、平均ではなく構成比を見る癖をつけることが重要です。
シンプソンのパラドックス:平均が逆転する現象
ここで、もう一歩深掘りしてみましょう。
「A商品」「B商品」の購入率を男女別に分析したところ、次のような結果が出たとします。
| 性別 | A商品購入率 | B商品購入率 |
|---|---|---|
| 男性 | 60% | 40% |
| 女性 | 70% | 50% |
※バーの長さは購入率を表します。緑=A商品、青=B商品
女性の方がどちらの商品も購入率が高いように見えます。
ところが、全体で平均を取ると――なぜかB商品の方が売れているという結果になる場合があります。
その理由は、男女の比率(構成比)が違うからです。
男性顧客が多く、彼らが主にB商品を買っていた場合、全体平均ではBが優勢に見えてしまいます。これが、シンプソンのパラドックス(Simpson’s paradox)です。
💡ポイント: 平均を取るとき、“グループの構成”が違うと結果が逆転することがある。
構成比を見る力を鍛える:数字の正体を追う
クロス集計で構成比を可視化することで、平均の誤解を防ぐことができます。
【年代 × 満足度】積み上げ棒グラフ(例)
満足
やや満足
普通
やや不満
不満
満足
やや満足
普通
やや不満
不満
満足
やや満足
普通
やや不満
不満
やや満足
普通
やや不満
不満
たとえば、満足度を5段階評価で「満足」「やや満足」「普通」「やや不満」「不満」に分類し、各年代の構成比をグラフで示すと、
・20代は「満足」「やや満足」が多く、ポジティブ層が厚い。
・40代は「普通」「やや不満」が多く、全体満足度を下げている。
このように、構成比の変化=平均値の変化の背景を教えてくれるのがクロス集計の真価です。
実務での応用:KPI・人事・マーケティング
クロス集計で構成比を分析すると、意思決定の精度が一気に上がります。
・KPI分析: 平均売上よりも、売上構成(商品別・顧客層別)を見る。
・人事評価: 平均スコアではなく、分布(高評価・中間・低評価)の割合を確認。
・マーケティング: 平均購買単価よりも、購入回数や顧客層の構成をチェック。
🧠ヒント: 平均を見るのは“結果”、構成比を見るのは“原因”を探ること。
まとめ:「平均を信じすぎない」クセをつけよう
平均値は便利な指標ですが、それだけに頼ると大きな誤解を招きます。
クロス集計を使えば、「なぜ平均がそうなったのか」という原因まで見えてきます。
・平均だけを見て判断しない。
・構成比で「中身の変化」を見る。
・グループ構成が変わると、平均も変わる。
クロス集計は、「数字の裏側を読む力」を育てる最高のツールです。
次回(第3回)は、「クロス集計で“人の心理”を読む」――実務応用編として、マーケティングや人事データへの展開を紹介します。
<文/綱島佑介>





