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インドの魔術師・ラマヌジャンの映画の試写会に行ってきました

公開日

2016年10月2日

更新日

2016年10月2日

(写真:©Richard Blanshard)

ラマヌジャンという数学者をご存知でしょうか?数学を専攻された方やそのほかの理系の方なら、名前だけでも聞いたことがあるという方は多いでしょう。

シュリニヴァーサ・ラマヌジャンは1887年にインドで生まれ、1920年に32歳の若さでこの世を去った数学者です。数学にあまり縁のない人には、「インド」「数学者」というだけでなんだか凄そう!と思えるかもしれませんが、ラマヌジャンは、インド人数学者の中でもとりわけ突出した存在、その天才的なひらめき・直感力から、「インドの魔術師」の異名をとった人物なのです。

ラマヌジャンとその理解者・ハーディ教授を描く

このラマヌジャンを主人公に作られた映画「奇蹟がくれた数式」(原題:The Man Who Knew Infinity)が、10/22(土)より全国で公開されます。1991年に著された『無限の天才 夭折の数学者・ラマヌジャン』を原作に描かれた、イギリスの映画です。
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この映画の試写を観る機会があったのですが、“数学素人”な私でも楽しめ、そして数学の魅力に気づかせてもらえた作品でした。ラマヌジャンをご存知の方はもちろん、数学をこれから学ぶ方、学び直そうとする方にもぜひご覧になっていただきたいので、あらすじを少しだけ紹介したいと思います。

インドで生まれ育ち、独学で数学を学んできたラマヌジャンは、港湾事務所の経理という閑職に就きながら研究を続けていました。自分の研究成果を世に発表したいと考えたラマヌジャンは、何人かの数学者に宛てて手紙を書きました。

その宛先の中の一人が、当時インドの宗主国であるイギリスのケンブリッジ大学で教授を務めるG・H・ハーディ教授でした。受け取ったハーディ教授は、その手紙を見て、ラマヌジャンによる“発見”の可能性に驚き、大学に招聘することにしました。

決意と希望を胸にトリニティカレッジの門をくぐったラマヌジャンは、ハーディ教授から、このままではこれらの“発見”を発表できない、「証明」が必要であると言い渡されてしまいます。しかし、自分の発見した公式を「正しい」と信じて疑わないラマヌジャンには、証明の重要性がなかなか理解できません。そんなことに時間をかけているなら、次の新しいことを発見したほうがいいという姿勢でした。

ラマヌジャンが“発見”した公式

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(写真:©Kevin Nunes)

ラマヌジャンは、その短い生涯の中で数千にも及ぶ数学の公式を発見したと言われています。一般的な数学者だったら一生涯の研究人生で公式を100も発見すればすごいと称賛されると思いますが、ハーディ教授との共同研究をしていた頃のラマヌジャンは、1日に半ダースもの公式を発見し、ハーディ教授はその証明に追われるほどだったと言います。

その数千にも及ぶラマヌジャンの公式も、その大半は証明されており、また一部は間違いであることが明らかになり、さらに現在も証明が終わっていないものが数百あるそうです。彼の功績は、現在の最先端の科学、例えばブラックホールの研究や、インターネットのセキュリティ技術にも活かされているそうです。科学の発展に寄与した偉大な数学者と言って、過言ではないでしょう。Facebook創業者であるマーク・ザッカーバーグも、「インターネットがない時代に、ラマヌジャンは、たった一冊のノートで世界を変えたんだ。」というコメントをこの映画に寄せています。

「証明」ができて、初めて「定理」になる

彼が“発見”にたどり着くスタイルは非常に独特でした。このような複雑な式でしか表せないような問題に関する公式を一瞬でひらめき、スラスラと記していきます。

どんな公式だったかというと、例えば有名なところで、円周率に関する公式はこんな数式です。
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ある時、数式で埋め尽くされたラマヌジャンのノートを見た人が、「どうやってそんなものを見つけられるのか」と聞いたところ、「ナマギーリ女神が舌に数式を書いてくれた」と答えたという逸話があります。

いやいや、冗談でしょう!そんな思いつき、本当に正しいんですかね?(そしてナマギーリ女神って何!)と、数学に造詣の浅い私などは思ってしまいますが、実はこうした批判的な視点・指摘に耐えうる「証明」がなされてこそ、「定理」として認められるのが数学の世界です。しかし、ラマヌジャンは「証明」を重要だと思えなかった。信仰心も篤かった彼は、神様からの授かりものである新しい“発見”を重視したんですね。

その意味で、ラマヌジャンとハーディ教授の「数学への向き合い方」は相容れない部分がありました。しかしそうしてある意味対立しながらも、“真理”を解き明かさずにはいられない「数学者の性質」が、二人の関係性をつないでいく…『奇蹟がくれた数式』はそんな物語です。あまり書くとネタバレになってしまいますので細かいことは書きませんが、邦題にある「奇蹟」とは何なのか、ぜひ映画館に足を運んで、確かめてみていただきたいと思います。

ちなみに…
一緒に試写へ行った和からの石井先生、ライターのキグロ氏によると、ラマヌジャンのことを知っていれば、「あ、あのエピソードだ」とほくそ笑んでしまう場面がいくつも散りばめられていたようです。また、ハーディを演じた、アカデミー賞の受賞歴もあるジェレミー・アイアンズの役作りを見て、「数学の研究者らしさを非常にうまく表現していた」と舌を巻いていました。数学を好きなら方、きっと楽しめる映画ですよ。

映画『奇蹟がくれた数式』
2016年10/22(土)より角川シネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、角川シネマ新宿他全国ロードショー 配給:KADOKAWA

(文=畑邊康浩)

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