【ロマ数トレラン】高木貞治『解析概論』を味わう〜複素解析の視点より〜
公開日
2024年2月24日
更新日
2024年3月9日
高木貞治先生の著作『解析概論』の初版が刊行されたのは昭和13年(1938年)のことですから,それから今日まで86年という歳月が流れています.この86年の間にはさまざまな人の手でおびただしい数の微積分のテキストが刊行されましたが,『解析概論』はそれらすべての模範になりました.古いテキストですが味わいが深く,魅力があり,いたるところで謎めいた言葉に出会い,強くこころを惹かれ,微積分とは何かという問いをめぐって深い思索の世界に誘われます.それらの言葉をなるべく多く採集して考察し,微積分の真の姿にせまりたいと思います.
『解析概論』の最大の特色は,実変数の関数の微積分を語りながら,その背景に広がる複素変数関数の微積分の世界が絶えず意識されているところに現れています.その様子は,たとえば次に挙げる高木先生の言葉にはっきりと示されています.
変数を実数に限ってもarcsin, arccos, arctanの多意性がlogの多意性の下にと統一される.
実変数に関する三角函数,双曲線函数は複素変数に関する指数函数の一断面にほかならないから,それらの逆函数がすべて対数函数に包括されるのである.この認識は大切である.
上記の関係(註.逆三角関数arcsin, arccos, arctanと複素対数を結ぶ関係式)は形式上はすでに十八世紀(Euler)において知られていたのであるが,その根本的の意味は十九世紀以後,複素変数が徹底的に考察された後に初めて明らかになって,そこから驚嘆すべき単純化が可能になったのである.初等函数といえども,複素変数にまで次元の拡張をしなくては完全に統制されないのである.(212頁)
この高木先生の言葉をつねに念頭に置いて,『解析概論』そのものを複素解析の視点から読んでみたいと思います.
微積分の本質に向けて理解を深めるうえで問題演習には大きな効果がありますが,流布している解答を見るといろいろな技巧が組合されていて,なかにはとても思いつきそうにないものも多いです.こうすれば解けるということはわかっても,どうしてそうすれば解けるのかという根本のところまではなかなかわかりませんが,根本の理由を踏まえて解くのが理想です.高木先生の『解析概論』にはそのあたりの諸事情がわりと明快に示唆されていますので,参考になります.特に,実変数の微積分の問題を複素解析の視点から眺めると,問題の本質が明瞭に理解されることがしばしばあります.また,実変数の微積分の問題の中には,複素解析の視点に立つことによってはじめて真相が理解できるものもたくさんあります.この観点は特に積分計算の場合に顕著です.
微積分演習のもうひとつの課題はdxやdyの使用法です.これらのdx, dyはそれぞれ変数x, yの微分と呼ばれる無限小の変数ですが,これらを自由に駆使するところに微積分の計算の真髄が宿っています.この傾向は特に微分法の問題の場合に顕著です.
共立出版から出ている『詳解 微積分演習 I, II』には実に多くの演習問題が集められていて,詳しい解答がついています.それらはいわば標準的な解答です.これに対し,あるいは複素解析の視点に立ち,またあるいは無限小の世界に沈潜して問題の解答を試みてみたいです.両者それぞれの解答の比較を通じて微積分の本質に寄せて理解を深めたいと思います.
受講対象
これから学ぼうとする人、学びつつある人、学び直そうと考えている人など、解析概論、微積分に関心のあるすべての人びと。
必要な数学知識
特別の前提となる知識はありません。有理関数、指数関数、対数関数、三角関数など、初等関数の微積分について、複素変数関数論の視点に立って第一歩から解説します。
セミナー内容
・関数の定義をめぐって
・1価関数と多価関数
・関数の微分と変数の微分
・不定積分と原始関数
・不定積分と定積分
・広義積分の収束と発散
・広義積分の数値の算出のいろいろ
・広義積分の発散の原因とは
・円の面積の算出再考
・発散級数の和とは
・オイラーの公式とドモアブルの公式
・実三角関数と虚対数
・複素解析の視点からの実積分の計算
・無限冪級数の収束円上の挙動の観察
・複素数の世界の玲瓏なる境地
・陰関数の微分(ケプラーの方程式)
・曲線の概形を描く(デカルトの葉)
※受講者の理解度により、上記内容は変更となることがあります。
※進行具合により、上記内容が前後することがあります。
セミナー基本構成
※内容によっては授業内に演習時間を含める場合がございます
∞セミナーの進め方∞
毎回ノートを準備して,それに沿って講義を進めるとともに,なるべく多くの問題を解いていきます.途中で自由な話し合いができるようにしたいと望んでいます.具体的な計算が重要ですので,課題を出して解いてもらう時間を作ります.
∞本編受講希望者の方向けの注意事項∞
・通信トラブル等が発生した時に、講師、受講生で円滑に連絡を取り合えるようLINEグループを作成します。LINEグループへの参加は必須とさせていただきますので、予めご了承ください。
・オンラインセミナー受講の際に必要となるパソコン、タブレットまたはスマホ等の通信機器、およびWiFi等のインターネット接続サービスは受講生ご自身でご準備いただきます。
・Apple Pencilなどのスタイラスペンやペンタブなど、画面にペンによる書き込み、描画を行える環境をご準備いただくことを推奨いたします。
・欠席者には録画動画だけでなく、セミナーで使用する配布資料(pdfファイルやurl等)も出席者同様配布いたします。
※開催回ごとに多少構成が変わることがあります。
料金
定員
特定商取引法に基づく表示
セミナー監修
高瀬正仁 (たかせ まさひと)
1951年、群馬県の山村、勢多郡東村(現在、みどり市)に生れる。東京大学卒業後、九州大学大学院に進む。大学院は理学研究科数学専攻。前期修士課程修了。後期博士課程中退。九州大学理学部数学科助手、講師、准教授を経て、基幹教育院教授。2016年、定年退職。
専攻は多変数関数論と近代数学史。オイラー、ガウス、アーベル、リーマンなど、数学の古典の翻訳を続けるとともに、岡潔と高木貞治の評伝を執筆した。
担当講師
※日程により一部講師が変わる事があります。
会場とスケジュール
本編(有料)
オンライン教室第01回 2024年03月23日(土) 14:00~16:30
第02回 2024年04月06日(土) 14:00~16:30
第03回 2024年04月20日(土) 14:00~16:30
第04回 2024年05月04日(土) 14:00~16:30
第05回 2024年05月18日(土) 14:00~16:30
第06回 2024年06月01日(土) 14:00~16:30
第07回 2024年06月15日(土) 14:00~16:30
第08回 2024年06月29日(土) 14:00~16:30
第09回 2024年07月13日(土) 14:00~16:30
第10回 2024年07月27日(土) 14:00~16:30
※最小履行人数は4名となります。最小履行人数に満たない場合、非開催となり、料金は返金させていただきます。開催有無は第一回ゼミの7日前に確定となります。
※ガイダンス回翌日18:00時点での申込数が定員を超えている場合は、抽選にて参加者を決定させていただきます。予めご了承ください。
※本編お申し込みの方にはご入金方法をメールでご連絡いたします。