ビジネスデータのブレ診断-第1回:「真ん中50%」でブレ具合をつかむ四分位数【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年11月14日
更新日
2025年11月10日
この記事の主な内容
はじめに:平均だけ見ていると、現場でモヤモヤする理由
「平均売上は悪くないはずなのに、現場の体感は“ブレブレ”なんだよな…」
ビジネスの現場で、こんな感覚をもったことはないでしょうか? 多くのレポートやダッシュボードでは、まず平均(平均値)が出てきます。しかし、平均だけでは、次のような疑問には答えてくれません。
・メンバーごとの数字に「バラつき」はないのか?
・月ごとの売上は、安定しているのか、ジェットコースターなのか?
・ごく一部の「超優秀」や「超異常」なデータに振り回されていないか?
この「バラつき」や「安定感」を数字でとらえるときに使うのが、散らばりの指標です。第1回のテーマは、その中でもとくに直感的で、ビジネスに応用しやすい四分位数と四分位範囲(IQR)です。
1. まずは「範囲」のおさらいから
統計検定4級レベルでは、散らばりの指標として範囲(レンジ)を学びます。
範囲 = 最大値 − 最小値
もっとも大きい値と小さい値の差を見ることで、「どれくらい広く散らばっているか」をざっくり把握する指標です。
| 月 | チームA売上 | チームB売上 |
|---|---|---|
| 1 | 98 | 60 |
| 2 | 102 | 140 |
| 3 | 101 | 80 |
| 4 | 99 | 120 |
| 5 | 100 | 50 |
| 6 | 100 | 150 |

範囲はシンプルでわかりやすい一方、次の弱点があります。
・たった1つの極端な値に大きく左右される
例:1人だけとんでもなく残業している人がいると、範囲が一気に大きくなる
・「ふつうの人たち」がどのあたりに集まっているかはわからない
そこで登場するのが、真ん中あたりのデータに注目する四分位数です。
2. 四分位数とは?「データを4つに割った位置」
データを小さい順に並べて、4等分する
四分位数は、データ全体を小さい順に並べて、4つに分けたときの区切りの値です。
・第1四分位数(Q1):下から25%の位置の値
・第2四分位数(Q2):下から50%、つまり中央値
・第3四分位数(Q3):下から75%の位置の値
これらを使うと、次のような感覚を数字でつかむことができます。
・「下側のほうのデータはどこまでが“普通”なのか」
・「上側のほうのデータはどこから“やりすぎ”なのか」

この表を使って、次のように説明できます。
・Q1 は「残業が少ないグループの上限」
・Q2(中央値)は「真ん中の人」
・Q3 は「残業が多いグループの下限」
「真ん中あたりの人たちが、どの範囲に集中しているか」を見ることで、データの散らばり具合をより現実的にイメージできます。
3. 四分位範囲(IQR):真ん中50%の広さを見る指標
四分位数がわかったら、そこから一歩進んで四分位範囲(IQR:Interquartile Range)を使ってみましょう。
四分位範囲(IQR) = 第3四分位数(Q3) − 第1四分位数(Q1)
IQRは、
「真ん中50%のデータがどれくらいの幅に収まっているか」
を表す指標です。
なぜ真ん中50%を見るのか?
ビジネスデータには、どうしても次のような「たまたま」の要素が含まれます。
・一時的なキャンペーンで急増した月
・システムトラブルで数字がガクッと落ちた月
これらの極端な値(外れ値)に振り回されず、ふだんの状態を把握したいときに、IQRが役立ちます。
・Q1〜Q3の幅が狭い → 多くのデータが似た値に集中している(安定している)
・Q1〜Q3の幅が広い → 真ん中の人たちの間でも差が大きい(ブレが大きい)

箱(Box)の部分だけを見れば、「真ん中50%がどのあたりに、どれくらいの幅で固まっているか」が一目でわかります。
4. 2つの部署を四分位数で比べてみる
ここで、残業時間の例をもう少しビジネス寄りに見てみましょう。たとえば、部署Aと部署Bの残業時間データがあるとします。
| 部署 | 平均残業時間(時間) | 第1四分位数 Q1(時間) | 中央値 Q2(時間) | 第3四分位数 Q3(時間) | 四分位範囲 IQR(時間) |
|---|---|---|---|---|---|
| 部署A | 15.6 | 11.0 | 14.0 | 19.0 | 8.0 |
| 部署B | 15.6 | 5.0 | 12.5 | 28.0 | 23.0 |
このとき、こんな読み方ができます。
・平均はほぼ同じでも、
部署A:IQRが小さい → 真ん中50%の人たちは似たような残業時間
部署B:IQRが大きい → 真ん中50%の中でも、かなり差がある
・部署Bでは、同じ部署の中でも「残業が集中している人」と「ほとんど残業していない人」が混在している可能性
単に「どっちが長時間労働か」ではなく、
「残業が特定の人に偏っていないか?」
という組織マネジメント上の課題を見つけるヒントになります。
5. 四分位数・IQRは売上分析にも使える
残業時間の例だけでなく、売上データにも四分位数・IQRは応用できます。
・店舗ごとの1日の売上
・1顧客あたり購入金額
・1案件あたりの受注金額
などで、次のような問いに答えやすくなります。
・「大半の店舗は、どのくらいの売上レンジにいるのか?」
・「上位何店舗かだけが数字を引っ張っていないか?」
・「顧客単価がやたら高い一部の案件に、平均が引っ張られていないか?」

「平均売上」だけを見ていると、
・A店:平均売上は高いが、日によって大きくブレる
・B店:平均売上はそこそこだが、安定して売れている
といった違いに気づきにくくなります。四分位数・IQRを合わせて見ることで、
「売上規模」と「安定性」の両方を意識した評価
ができるようになります。
6. まとめと次回予告
第1回では、散らばりの指標の中でも直感的で実務に使いやすい、
・四分位数(Q1・Q2・Q3)
・四分位範囲(IQR)
を取り上げました。
ポイントを整理すると、次の通りです。
・散らばりを見るのは、「平均だけではわからない安定性や偏り」を知るため
・四分位数は、データを4等分したときの区切りとなる値
・四分位範囲(IQR)は、真ん中50%の広さを表す指標
・IQRが小さいほど、真ん中の人たちの数字が揃っていて「安定」
・残業時間・店舗売上・顧客単価など、ビジネスのさまざまな場面で活躍
次回(第2回)は、散らばりの指標としてさらに一歩進んだ、
分散と標準偏差で「平均からのズレ」を見える化する方法
を、数式に頼りすぎず、イメージ重視でやさしく解説していきます。分散・標準偏差は、統計学の世界で「ブレを測る代表選手」といえる存在です。ぜひ、今回の四分位数・IQRとあわせて、「ブレ診断の基本セット」として身につけていきましょう。





