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確率の考え方-第3回:条件付き確率とベイズ思考をビジネスに応用する【統計学をやさしく解説】

公開日

2025年10月24日

更新日

2025年11月25日


はじめに


第1回では「偶然を数で考える」基礎を学び、第2回では「同時確率」と「独立」を通じて“関係の見方”を整理しました。今回はそこからさらに一歩進めて、「情報が増えるたびに考えをどう更新するか」を扱います。

「確率」は未来を予言するためのものではなく、情報が増えるたびに“考えを更新する”ためのツールです。今回のテーマ「ベイズ思考」は、その更新の仕組みを理解する考え方。AIやマーケティング分析の根幹にあるロジックでもあります。

今回は、難しい数式を使わずに「条件付き確率」と「ベイズの考え方」を、実務でどう活かせるかを中心に解説します。


1. 条件付き確率の復習:状況を区切ると見える真実

条件付き確率とは、「ある条件のもとでの確率」を考えることでした。

例として、健康診断での「陽性(検査で反応が出ること)」を考えましょう。まず用語をやさしく整理します。

感度: 病気の人を正しく「陽性」と言える割合(ここでは90%)
偽陽性率: 本当は健康なのに「陽性」と出てしまう割合(ここでは5%)
事前確率: 検査前に、その集団で病気の人がどれくらいいるか(ここでは1%)

では、人数に置き換えてイメージしましょう。1万人を検査するとします。

1. 病気の人は 1% → 100人。このうち感度90%なので、90人が陽性(10人は陰性)。
2. 健康な人は 9,900人。このうち偽陽性率5%なので、495人が陽性(9,405人は陰性)。

この結果、

・陽性と出た人の合計= 90(本当に病気) + 495(健康だが陽性)= 585人
・陽性の中で本当に病気なのは 90人 だけ。

【表1】検査結果のクロス表
状況 病気あり(100人) 健康(9,900人) 合計
陽性 90 495 585
陰性 10 9,405 9,415
合計 100 9,900 10,000

陽性の中で本当に病気の人は 90 / 585 ≒ 約15%

つまり、陽性と言われたときに実際に病気である確率(事後確率)は 90÷585 ≒ 約15% です。

数字を見ると、「陽性=病気」とは言い切れない理由がわかります。検査の精度(感度・偽陽性率)もともとの頻度(事前確率)の両方を考えないと、直感とズレてしまうのです。


2. 陽性=病気ではない? ベイズ思考の出番

この「陽性が出たら病気だと思ってしまう直感」と、実際の確率にはズレがあります。ここで使うのが「ベイズの定理」です。

ベイズの定理: 事後確率 =(事前確率 × 条件付き確率)/ 全体の確率

もう少し言い換えると、
“もともとの確率”を、得られた情報で更新する” という考え方です。

AIやマーケティング、営業分析でも、この「更新の考え方」が非常に重要です。


3. ビジネスにおけるベイズ思考の応用

3-1. 営業シーンでの例

・初回商談で「契約見込みあり」と判定された顧客の成約率は60%。
・ただし、追加で「担当者が前向き」との情報が入った場合、その後の成約率は80%に上昇。

これは、ベイズ的に確率を更新している状態です。
「新しい情報(前向き)を得たことで、予測を修正する」──まさにベイズ思考の実践です。

3-2. マーケティングでの例

キャンペーン施策Aが成功した確率が40%だとしても、「ターゲットを絞った後」に再計算すると60%に上がることがあります。
これは「条件(ターゲット)」を付けることで、確率を再評価しているということ。
つまり、ベイズ思考は“条件によって結果をアップデートする思考法”なのです。


4. 直感と確率のズレに気づく力

人はしばしば、「一度得た情報」に強く影響されます。これを心理学では「確証バイアス」と呼びます。
ベイズ思考の本質は、「一度決めた仮説でも、確率で柔軟に見直す」ことです。

たとえば、
・「この商品は売れそうだ」という思い込みを、販売データで再検証する。
・「この広告は効果がない」と思っても、再ターゲティング後の反応で考え直す。

これができる人は、確率的思考が自然に身についている人です。



5. シリーズ総まとめ:確率で世界を読み解く力を身につけよう

3回にわたって学んできた「確率の考え方」シリーズも今回で完結です。

「偶然を数で考える」ことから、「同時確率」と「独立」へ続き、「条件付き確率」と「ベイズ思考」へとつながりました。情報が増えるたびに考えを更新する“柔軟な思考法”を理解してもらえればと思います。

確率は単なる数字の話ではなく、「変化する状況の中で、最も合理的に考えるためのツール」です。
データを読む力、仮説を立てる力、そして結果から学びを得る力──そのすべてを支えるのが確率的思考です。

💡 明日からできること:
1. 迷ったときは「どのくらい起こりそうか?」を数で考える。
2. 新しい情報を得たら、自分の考えを少しでも更新してみる。
3. 「偶然」と「因果」を混同せず、冷静に判断する習慣を持つ。


この3回シリーズで、「確率」がビジネスや日常を読み解く“思考の言語”であることを感じていただけたなら幸いです。これからの判断に、確率の視点を少しだけ取り入れてみてください。

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