トレンドを見抜く「移動平均」のチカラ-第4回:実務で使う移動平均の読み方と判断ミスを防ぐコツ【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年11月13日
更新日
2025年11月10日
この記事の主な内容
はじめに:線が“なめらか”なだけではもったいない
ここまでの第1〜3回で、
・「移動平均とは何か」
・「季節変動をならしてトレンドを読む方法」
・「3か月・6か月・12か月など期間設定の考え方」
を見てきました。
最終回となる第4回では、実務でどう読み取るか・どう使うかに踏み込みます。
グラフに“きれいな線”を描くだけではもったいない。移動平均は、判断ミスを減らし、意思決定の質を上げるためのツールです。
コツ1:トレンド転換は「1か所」ではなく「流れ」で見る
売上やアクセス数のグラフで、短期移動平均線が長期移動平均線を上に抜ける瞬間があります。
いわゆる「クロス」です。
・短期線が長期線を上抜け → 上昇トレンドへの転換“かもしれない”
・短期線が長期線を下抜け → 下降トレンドへの転換“かもしれない”
ここで大事なのは、「1か所のクロス=トレンド転換」と決めつけないことです。
見るべきポイントは:
1. クロスが「一時的」ではなく、しばらく続いているか
2. その後のデータ(数か月)も同じ方向で推移しているか
3. 外部要因(キャンペーン・値上げ・一時的トラブルなど)が影響していないか
少なくとも、2〜3ポイント連続で同じ方向に動いているかを確認してから、「傾向が変わった」と判断するのがおすすめです。

コツ2:平均線には「必ず遅れがある」と理解しておく
移動平均は、過去のデータをまとめて平均するため、どうしても“遅れて反応する”という性質を持っています。
たとえば12か月移動平均の場合:
・急激な売上減少が起きても、しばらくは線が緩やかにしか下がらない
・回復が始まってもしばらくは「まだ下がっているように見える」
ここでやりがちなのが、
「移動平均線がまだ上向いているから、ビジネスは順調だ」
と安心してしまうこと。
実際には、足元の生データはすでに減少局面に入っているかもしれません。
おすすめの見方:
・「生データ(単月値)」と「短期移動平均(3か月など)」
・さらに「長期移動平均(12か月など)」
この3つをセットで見ることです。
・足元の生データ:今起きていること
・短期平均:最近数か月の流れ
・長期平均:ここ1〜2年の大きな方向性
長期線だけで安心しない。短期線と生データで“変化の兆し”を早めに拾う。
これが判断ミスを防ぐうえで重要なポイントです。

コツ3:報告書でよくある3つの誤解パターン
移動平均入りの売上レポートやKPIダッシュボードで、現場が陥りがちな誤解を3つ紹介します。
誤解① 「線が右肩上がり=全部順調」
移動平均線は、過去も含めて慣らした結果なので、少々の減速では見た目があまり変わりません。
実際には、
・成長率が落ちている
・採算悪化で“質の悪い成長”になっている
といった状態でも、線だけ見ると「右肩上がり」で油断してしまうことがあります。
→ 対策:
「レベル(売上額)だけでなく、前年比・成長率・利益率なども併せて確認する。」
誤解② 「移動平均=将来を予測してくれる線」
移動平均はあくまで“過去の平均”です。
「未来を予測する魔法の線」ではありません。
・これまでの流れが続くと仮定すれば、先のイメージはできる
・しかし、制度変更・競合登場・価格改定などが起きると、すぐに外れる
→ 対策:
「移動平均は“過去から今までの整理”のために使い、将来のシナリオは別途考える。」
グラフの外に、施策や環境変化に関するメモを入れておくのも有効です。
誤解③ 「1本の線だけで判断できる」
短期線だけ、長期線だけを見て「よし・だめ」を判断してしまうパターンです。
たとえば短期線だけを見て、
「最近下がってきているから、もうこの施策はダメだ」
と結論づけてしまうと、一時的なノイズや季節要因を“失敗”と誤解する危険があります。
→ 対策:
・短期線:動きの“速さ”を見る
・長期線:方向性の“持続性”を見る
2本をセットで見る前提にすることで、誤解がぐっと減ります。
ChatGPTとExcelで「ほぼ自動」のテンプレートを作る
実務で使い続けるには、「毎回手で作る」のではなく、テンプレート化してしまうのが一番です。
Excel側の工夫
・売上やKPIを入力するシートを1つ用意
・隣の列に「3か月移動平均」「12か月移動平均」の数式をあらかじめ設定
・グラフを作っておき、データを追加すると自動で更新されるようにする
例:
・3か月移動平均:=AVERAGE(B2:B4) を下にコピー
・12か月移動平均:=AVERAGE(B2:B13) を下にコピー
グラフは範囲を広めに指定しておけば、行を追加するだけで線が伸びていきます。
ChatGPTにやってもらえること
ChatGPTには、こんな使い方ができます。
・「この列の12か月移動平均を出したい。先頭行がB2だとして数式を教えて」
・「売上の時系列表から、トレンドのポイントを日本語で箇条書きにして」
・「3か月・12か月移動平均を比較して気づけることを説明して」
→ エクセル式の生成だけでなく、グラフの読み取り・レポート文章の“たたき台”を作るところまで一緒にやらせるイメージです。

まとめ:移動平均は「過去を見るための未来ツール」
最後に、このシリーズ全体を通してのメッセージを整理します。
・移動平均は、データのブレをならしてトレンドを見やすくするフィルター。
・短期・長期を組み合わせることで、変化のスピードと方向性を同時に捉えられる。
・そして、判断ミスを減らし、次の一手を考えるための“補助線”になる。
移動平均そのものは、あくまで「過去のまとめ」です。
しかし、その線をどう読み取り、どんな問いを立てるかによって、未来の打ち手は大きく変わります。
過去のデータを丁寧に整理し、
そこから未来へのヒントを引き出す──
その橋渡しをしてくれるのが「移動平均のチカラ」です。
このシリーズが、あなたのレポートや会議資料を、
「ただの数字の報告」から「未来のアクションにつながる提案」へと一歩進める助けになればうれしいです。





