時系列データの基本と見方 - 第1回:変化を読む力【統計学をやさしく解説】
公開日
2025年10月19日
更新日
2025年12月2日
この記事の主な内容
はじめに:数字に“時間軸”を加えると世界が変わる
これまでのデータ分析では、売上や満足度などを“ある一時点の数字”として扱ってきました。
しかし、数字は時間とともに動き続けます。
その変化を観察するのが 時系列データ分析 です。
例えば、あなたの会社の月次売上がこうだったとします。
| 年月 | 売上額(万円) |
|---|---|
| 2024年1月 | 520 |
| 2024年2月 | 480 |
| 2024年3月 | 560 |
| 2024年4月 | 600 |
| 2024年5月 | 630 |
| 2024年6月 | 610 |
| 2024年7月 | 670 |
| 2024年8月 | 720 |
| 2024年9月 | 690 |
| 2024年10月 | 740 |
| 2024年11月 | 780 |
| 2024年12月 | 850 |
※例:季節要因によって月ごとに売上が変動している様子を示しています。
この「数字の流れ」をグラフにしてみると、数字が単なる羅列ではなく、“物語”を語りはじめます。
【折れ線グラフ例】月次売上推移(2024年)
※棒の高さは売上額(万円)の相対値を表しています。
年末に向けて売上が上昇するトレンドが見られます。
グラフの山と谷には、季節・イベント・景気など、目に見えない要因が潜んでいます。
それを読み解くことが、時系列分析の第一歩です。
1. 時系列データとは?
「時系列データ」とは、時間の経過に沿って記録された数値の集まりを指します。
例としては以下のようなものがあります。
・会社の売上推移
・サイトのアクセス数
・株価や為替の変動
・気温や降水量の変化
時間が加わることで、“今の数字が特別なのか、それとも毎年同じパターンなのか”が分かります。
つまり、時系列データは「過去と未来をつなぐ橋」なのです。
2. 折れ線グラフで変化を“見る”
折れ線グラフは、時系列データを可視化する最も基本的な手法です。
上下の動きで、トレンド(傾向)や周期性(季節性)が直感的に分かります。
【折れ線グラフ例】月次売上推移(2024年)
7月8月9月10月11月12月
※折れ線は売上の推移を表しています。
年末に向けて上昇トレンドが見られる典型的な季節変動の例です。
たとえば「年末に売上が上がる」「梅雨時期に来店数が減る」など、データが語る季節のリズムを読み取れます。
こうした“パターン認識”こそが、データを活かす第一歩です。
💡Tip: 折れ線グラフの横軸は必ず“時間”、縦軸は“数値”で統一しましょう。
時間軸が均等でないと、変化が誇張されたり歪んだりします。
3. 移動平均でノイズを消してトレンドをつかむ
時系列データには、ちょっとしたイベントや誤差による“揺れ”が含まれます。
そんな時に役立つのが 移動平均(Moving Average) です。
過去数期間(例:3か月、7日など)の平均を計算して線を描くと、短期的な変動をならして“真の傾向”が見えます。
【折れ線+移動平均線グラフ例】月次売上推移とトレンド(2024年)
7月8月9月10月11月12月
移動平均(3か月)
※オレンジの破線は3か月移動平均を示します。
一時的な上下動をならすことで、全体の上昇トレンドがより明確に見えます。
移動平均はマーケティングでもよく使われます。
広告効果や来店者数の「一時的な跳ね上がり」をならして、安定したトレンドを確認できるからです。
⚙️実務Tip: 3か月移動平均を使うと、季節変動の“ノイズ”を減らして、経営判断がブレにくくなります。
4. 自己相関 ― 過去が未来を作るという視点
ここで、少し“おもしろい話”をしましょう。
多くの人が驚くのが、「過去のデータが未来を予言する」という考え方です。
たとえば「売上が好調な翌月は、だいたい次の月も好調」など。
これは単なる偶然ではなく、自己相関(autocorrelation) という統計的現象です。
【自己相関グラフ例】ラグ1〜12の相関係数
789101112
※棒の高さは「過去データとの関係の強さ(相関係数)」を示します。
ラグ1〜3の値が高いほど、直近のデータの影響が強く、
時系列データに“連続性(記憶)”があることを意味します。
自己相関とは、過去のデータと現在のデータの“つながり具合”を表す指標です。
もし相関が高ければ、「過去の流れが未来にも影響している」と言えます。
💡コレログラム: 自己相関を棒グラフで可視化したもの。どのくらい過去まで影響が続くかが一目で分かります。
データの“記憶”を読むことで、次の行動を予測しやすくなります。
5. グラフを読むときの注意点
・縦軸のスケールは原点から/一貫した範囲で設定。途中で切ると小さな差が大きく見える(例:売上95→100を縦軸90–100にすると急増に錯覚)。必要なら注記を入れる。
・データ更新のタイミングを揃える(営業日数、月末締め/四半期締め、祝日有無)。営業日が少ない2月は売上が低く見えるため、日割り・営業日補正の比較も併記。
・短期間データのみで判断しない(最低1年=季節性1周期)。可能なら前年同月比と移動平均(3か月/12か月)を併用して、季節とトレンドを分離。
・“一時的なバズ”に惑わされず、継続性を見る。キャンペーン・メディア露出・価格改定などのイベントログを並記し、施策後に水準が維持されたか(定常化)を検証。
⚠️注意: 「増えた・減った」ではなく、「どう変わってきたか」を見るのが時系列分析の本質です。
6. まとめ:変化の“形”を読む力を持とう
数字は単なる記録ではなく、“流れ”を持っています。
その流れの中に、行動・成果・市場の動きが映っています。
・折れ線グラフで「変化の形」を見る
・移動平均で「本当のトレンド」をつかむ
・自己相関で「過去と未来のつながり」を知る
次回は、この“変化”をさらに一歩深めて、「増減率」というスピードの概念でデータを読み解きます。
数字の変化を“速度”で見ると、また新しい発見が待っています。
<文/綱島佑介>





