データは語る時代を動かす「見える化」からの進化 - 2010年代後半〜2020年代前半
公開日
2025年8月24日
更新日
2025年11月5日
前回は、SNSによって「誰もが発信者になる」社会が到来し、企業と個人の境界が曖昧になった「SNSビジネス活用期」について振り返りました。
次に訪れたのは、「発信」された膨大な情報をどう“読み解くか”という問いに対して、明確な手段を持つ時代――それが「データサイエンス時代」です。SNS、Webサイト、IoT、顧客管理システムなど、多様なソースから得られるデータが急増し、それを活用する力が新たな競争力となっていきました。
さらに、クラウドサービスの普及によって、これまで個別に存在していた業務データや顧客データが集約・統合されるようになり、データ量そのものが飛躍的に増大しました。ストレージや計算リソースがオンデマンドで利用できることで、大規模かつ複雑なデータ分析が現実的になり、企業にとって「データを活かすこと」は選択肢ではなく前提条件へと変化していったのです。
この記事の主な内容
背景:統計からAIの入口へ、意思決定の手段としてのデータ活用
データサイエンスの礎となったのは、統計学の基礎的な知識とビジネス現場での応用でした。2010年代後半には、Google AnalyticsやTableau、Power BIといったBIツールの普及により、専門家でなくてもデータにアクセスし、可視化・分析する機会が広がりました。
さらに、クラウドサービスの普及により、これまで部門や拠点ごとに分断されていたデータが一元化・蓄積されるようになり、「ビッグデータ」を扱う土台が整いました。ストレージコストの低下と計算処理の高速化により、企業はかつてない規模でのデータ活用が可能となりました。
とはいえ、多くの企業ではその変化に対する対応が遅れがちでした。要因としては、第一にデータ分析に必要な人材の不足や、社内に蓄積されたデータの質や整理状況がバラバラだったこと。第二に、データを扱う部門がITや特定部署に限定され、現場のビジネス課題と乖離していた点が挙げられます。さらに、分析結果をどう意思決定に活かすかという“活用の設計力”も不足しており、ツール導入のみで終わってしまうケースも目立ちました。
加えて、PythonやRなどのプログラミング言語を活用した高度な分析、機械学習による予測モデル構築なども広まり、マーケティングや人事、営業、製造現場など、あらゆる領域で「データに基づいた判断」が当たり前になっていきました。
必要になったスキル
- 基礎統計の理解とExcel活用力:平均・中央値・相関・散布図など、データの基本的な見方を理解する力。
- BIツールの操作スキル:Tableau、Power BI、Lookerなどを用いたデータの可視化・分析。
- SQL・Python・Rなどの分析言語:より複雑なデータ処理や機械学習の導入に向けたプログラミングスキル。
- データからの示唆抽出力:分析結果をもとにビジネス上の仮説や意思決定に活かすストーリー構築力。
- 部門横断的なデータ連携とリテラシー:部署を超えたデータ共有・連携、誤読・誤解を避けるためのリテラシー教育。
不要になったスキル
- 勘や経験だけに頼った意思決定:直感だけで判断する風土は見直され、データとセットで意思決定を行う体制へ移行。
- 帳票出力と紙ベースのレポート作成:リアルタイムで共有できるダッシュボードの普及により、静的な帳票の重要性が低下。
- 属人的な報告文化:一部のベテランだけが把握する“なんとなく”の現場感覚は、データと数値で補完されるように。
当時のリスキリング状況
この時期、多くの企業が「データを使って何かしたいが、何から始めればいいかわからない」という課題に直面していました。背景には、クラウドやSaaSの普及によって急激に蓄積されるようになった業務データに対し、それをどう活かせばいいかを判断するスキルや体制が整っていなかったという事情があります。
多くの現場では、「分析ツールを導入すれば何か変わるのではないか」といった漠然とした期待のもと、BIツールやダッシュボードを導入するものの、“見える化”しただけで終わってしまうケースが多く見られました。また、「データ分析は専門職の仕事」という固定観念から、現場担当者の理解が追いつかず、使いこなせないまま運用が形骸化していくこともありました。
その中で徐々に、「自分たちの業務に活かせる形でデータを扱える人材」を育てる必要性が広がり、文系出身者や中堅社員を対象にした統計・BI研修、Python入門講座、部門別の分析ワークショップなどが数多く実施されるようになりました。
また、外部パートナーと連携してPoC(概念実証)を行いながら、実践的なノウハウを社内に蓄積する企業も増加。特定部門の専門職に任せるのではなく、「全社員がデータに触れ、理解し、活かせる」文化を目指す動きが活発になっていきます。

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教訓:見える化はゴールではなくスタート。問いを立て、活かせる力が求められる
データはただ収集・可視化しただけでは、業務改善や意思決定にはつながりません。たとえば、グラフで売上の推移が見えたとしても、「なぜ増えたのか」「どこに課題があるのか」という“問い”を持たなければ、単なる観察で終わってしまいます。
本当に求められるのは、データから“意味”を読み取り、仮説を立て、意思決定やアクションにつなげる力です。こうした力は、営業現場での戦略立案、商品開発のニーズ分析、業務効率化のボトルネック特定など、あらゆる場面で求められています。
つまり、単なる“数値を並べる”スキルから、“問いを立て、データから答えを導き、現場で活かす”スキルへの転換が重要です。これは、目の前の数字を「見て終わる」時代から、「意味づけて活かす」時代へ変わったことを意味します。
このような姿勢やスキルこそが、次に到来する生成AIの時代においても、AIの出力結果を的確に読み解き、判断し、使いこなすための“基盤的な力”となっていきます。
次回予告:生成AI時代(2022〜)
次章では、いよいよChatGPTをはじめとする生成AIが、知的労働の在り方にどのような衝撃を与えたかをつながります。従来は人間にしかできなかったと思われていた、文章の執筆、画像の生成、会話の応答、情報の要約、企画や構成の立案といった業務に、AIが驚くほどの精度とスピードで対応できるようになってきました。
これにより、単なる業務の効率化にとどまらず、「誰が、どこまでやるべきか」「人間にしかできない仕事とは何か」といった本質的な問いが突きつけられるようになります。生成AIの登場は、スキルの意味や仕事の役割そのものを再定義する契機となり、今後の働き方を大きく左右していく重要なターニングポイントとなっています。
<文/綱島佑介>




