【連載第9回】AI時代に求められる“人間の力”とは?
公開日
2025年8月13日
更新日
2025年10月20日
AIが思考を補助し、提案を行い、資料作成や仮説検証まで担う時代――それは、あらゆるビジネスパーソンにとって大きな恩恵である一方、「人間の存在価値はどこにあるのか?」という本質的な問いを突きつけているように感じます。
特に、管理職やコンサルタントといった“考える職種”にとって、AIの進化は非常にインパクトの大きい変化です。これまで自分たちが担ってきた業務の一部が、ChatGPTのような生成AIによって代替可能になってきたことで、「人間にしかできない力」とは何なのかが、より問われる時代に入ってきたと実感しています。
本稿では、そうしたAI時代において、どんな“人間の力”が今後も変わらず求められ、むしろAI時代だからこそより価値を持つようになるのかを整理していきたいと思います。そして、それらをどのように育て、実践に活かしていくかについても考察します。
この記事の主な内容
AIでは代替できない3つの“人間力”
AIができることは急速に増えていますが、それでも「人間にしかできないこと」は確実に存在しています。中でも、以下の3つは、今後の時代においても極めて重要な能力になると考えられます。
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感情知性(Emotional Intelligence)
共感する力、相手の感情を読み取る力、気遣いながら対話を進める力。これらは、人と人との関係性を築くうえで欠かせないものです。たとえば、部下が何に困っているのかを察知したり、顧客の言葉の裏にある本音をくみ取ったりといった行為は、言語処理能力だけでは対応できません。ChatGPTがいくら会話を上手にできるようになっても、目の前の相手の「沈黙」や「表情の変化」を察することはできません。だからこそ、感情に寄り添える力は、今後も管理職やチームリーダーにとって不可欠な資質だと感じます。
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倫理判断力
AIはロジックに従って最適解を提示することができますが、それが「正しいかどうか(倫理的に)」は判断できません。ある施策が短期的には効果的でも、それが社員の健康や人権を損なう可能性があるなら、それを「NO」と言えるのは人間の役割です。特に管理職や経営層は、長期的な視野と倫理観をもって判断を下す場面が多くなります。AIが示す「最も効率的な答え」に対して、「それは私たちの価値観に合っているのか?」と問い直す力が求められるのです。
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空気感の把握と適応力
「場の空気を読む」「今この場で何を言うべきか・言わないべきかを判断する」といった空気感の把握は、暗黙知に近い人間特有のスキルです。これは、マネジメントにおいて極めて重要です。たとえば、現場が疲弊している空気感を感じ取って、あえて目標管理の議論を後回しにするなど、“文脈を読む力”が人間の強みです。また、前提が変わる環境下で「対応を切り替える判断力」も、人間の柔軟性に依存します。AIは過去のパターンには強くても、“予測不能な混乱”にはまだまだ対応しきれません。
管理職に必要な“変化適応力”と“信頼構築力”
AIの進化は、企業の構造や仕事の進め方を大きく変えています。その中で管理職に求められるのは、単に「ツールを使いこなすこと」ではなく、組織を変化に適応させていく“橋渡し役”になることだと考えています。
▼ 変化適応力
新しいテクノロジーや業務フローが導入される中で、「部下がついてこられるように、どのように伝えるか?」「業務の意味付けをどう共有するか?」といった点に配慮する必要があります。
ChatGPTのようなツールを使いこなせるだけでは不十分で、「その変化をどう組織に溶け込ませるか?」を考える力、つまり“人に合わせる力”が求められると感じています。
▼ 信頼構築力
AIと一緒に働く環境では、逆に「人と人との信頼」がこれまで以上に重視されると感じます。
たとえば、「この人の言うことなら信じられる」「一緒に働くと安心できる」といった、いわば“空気のような信頼”こそ、マネジメントの土台です。それは、共に困難を乗り越えたり、対話を重ねてきたりする中でしか醸成されないものです。
このような信頼の土台があってこそ、AIの活用も円滑に進むようになります。「AIが提案してきたアイデアを、人がどう使うか」「その人の判断を、周囲がどう受け止めるか」は、すべて信頼関係にかかっているからです。
ChatGPTを超えて価値を出す人間になる
では、AIと共存する未来において、“AIにはできない価値”を人間がどう出していけばいいのでしょうか。
結論として、私は次の3つの力をバランスよく磨いていくことが、AI時代における人間の価値を最大化するカギになると考えています。
- 問いを立てる力:AIに考えさせるには「良い問い」が必要です。仮説の起点、視点のズラし、問題の本質を突く質問力は、人間の知性の本質です。
- 意味づけする力:AIが提案したアイデアに「なぜそれが重要か」「私たちの文脈でどう活かせるか」を意味づけできる力が必要です。そこには価値観や哲学が含まれます。
- 人と動く力:言葉にできない空気を読み、誰かの背中を押し、チームを巻き込む力。最終的に組織を動かすのは、やはり“人間”です。
これらの力は、マニュアルで学べるものではありません。しかし、日々の対話や実践の中で少しずつ育てていくことは可能です。むしろ、AI時代において人間の役割を再定義する鍵となるスキルだといえるでしょう。
次回予告:「AIと共に働くチームをどう育てるか」
連載最終回となる次回は、「AI活用をチームにどう浸透させ、定着させるか?」に焦点を当てます。社内研修やテンプレート共有、成功事例の共有など、組織全体でAIと共存・共創するための方法について考えていきます。
生成AIの可能性を、誰か一人の力だけで終わらせないために――ぜひ最終回もお読みください。
<文/綱島佑介>




