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【連載第8回】“巻き込む力”はAIにはできない

公開日

2025年8月12日

更新日

2025年10月20日

AIが戦略を立て、資料を作り、仮説を検証する――そんな時代において、経営や組織運営における「人間の役割」とは一体何なのでしょうか。

結論から言えば、AIには「巻き込む力」は持てない、と私は考えています。

たとえChatGPTが優れたアイデアを提示したとしても、それを“現場に実行させる力”や“共感を生み出してチームを動かす力”までは代替できないのです。これは、経営コンサルタントでも管理職でも、社内で何かを動かす立場にある人にとって決定的に重要なスキルであり、AIでは補えない“人間ならではの力”だと感じます。

本稿では、AI時代にこそ重要になる「巻き込む力」について、社内実行支援やファシリテーションという観点から整理し、実際にChatGPTを活用しながら“社内コンサル”として活躍する方法についても解説していきたいと思います。

コンサル思考③:社内実行支援とファシリテーションの重要性

これまでの回では、経営コンサルタントが行う業務のうち、調査・分析・仮説立案・資料化といった領域がChatGPTで代替可能であることを見てきました。

しかし、実際の現場で価値を発揮するためには、次のフェーズである「実行支援」が欠かせません。どれだけ良い戦略も、組織が動かなければ絵に描いた餅です。

この“実行フェーズ”を支えるのが、ファシリテーションです。経営コンサルタントが実際の現場で行っているファシリテーションには、次のようなものがあります。

  • 改善ミーティングの場を設計する(目的設定・進行・合意形成)
  • 現場の声を引き出し、対話を通じて課題を整理する
  • ステークホルダー間の利害を調整し、方向性を一致させる
  • 実行段階でのKPI設計や進捗確認の仕組みを構築する

これらは、単なる知識や論理だけでは成立しません。相手の感情、組織の空気、タイミング、関係性といった“文脈”を読み取る力が不可欠なのです。

そして、ファシリテーションは単なる会議進行だけでなく、“組織を動かす触媒”となる重要な役割でもあります。誰かが言葉にできないモヤモヤを言語化し、それを全体に共有し、行動に変える。そこにこそ、コンサル的な価値があります。

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「人を動かす」スキルを再評価する

AI時代において、「調べる力」や「考える力」はツールで大きく強化されました。ChatGPTのようなツールを使えば、誰でも一定レベルの資料や仮説を短時間で作成できます。

しかし、それだけではチームも組織も動きません。

実際に行動を引き出し、変化を促すには、「巻き込む力」が不可欠です。この力こそ、今後ますます“人間にしかできない仕事”として、評価されるようになると考えられます。

そしてこの力は、管理職にとって“リーダーシップ”の中核をなすべきものであり、社内でコンサルタント的な役割を果たすためにも必須のスキルです。

今後は、ChatGPTなどの生成AIと協力しながら、考える力・伝える力に加えて、“動かす力”をいかに高めていけるかが、ビジネスパーソン全体の競争力を左右していくのではないかと感じています。

“社内コンサル”としての管理職の役割

こうしたファシリテーション力や実行支援力は、管理職にこそ求められるスキルです。単にプロジェクトを管理するだけでなく、組織全体のベクトルを整え、実行に移す役割を担うのが、現代の管理職です。

社内における“社内コンサルタント”として、ChatGPTを駆使して調査や資料作成を行うだけではなく、以下のような行動が期待されます。

  • 部門の課題を言語化し、チーム全体で共有する
  • 施策の目的を関係者にわかりやすく伝える
  • 会議の中で意見を引き出し、納得感ある方向性をつくる
  • 実行までのスケジュールや役割を具体化し、現場に落とし込む

このような「巻き込む力」は、まさに生成AIでは補えない“人間の能力”です。AIは指示通りの情報を整理し、案を提示することは得意ですが、その案に“魂”を入れ、組織の中で共感を呼び、行動を生み出すのは人間の仕事です。

だからこそ、管理職には“伝える力”だけでなく、“つなぐ力”“共感を呼ぶ力”“動かす力”といった巻き込みの総合力が求められているのではないかと考えます。

ChatGPTでマニュアル・巻き込み資料を作る

「巻き込む力」を発揮するためには、場づくりや資料設計にも工夫が必要です。実際には、ChatGPTはそのための素材を生み出す強力なアシスタントになります。

ここでは、ChatGPTを活用して、ファシリテーションや実行支援に役立つアウトプットを作成する方法をいくつか紹介します。

① 現場ヒアリング用の質問リストを作る

「倉庫業務の効率化をテーマに、現場担当者から課題を聞き出すための質問を10個作ってください」

→ヒアリングの精度が上がり、現場の声を引き出しやすくなります。話すきっかけを作る“問いの設計”にも有効です。

② 合意形成に向けた資料の構成案を作成

「人事評価制度の見直し案について、現場スタッフが納得しやすいように構成された説明資料のアウトラインを作ってください」

→複雑な内容を“共感ベース”で伝える設計ができます。説明の流れが整えば、抵抗感の軽減にもつながります。

③ 実行ステップのマニュアル化

「新しい顧客対応フローを浸透させるためのマニュアルを、5ステップでまとめてください」

→現場の運用負担を軽減し、スムーズな定着につながります。ChatGPTは文章表現や段階設計が得意なので、この種のマニュアル作成とは相性が良いです。

このように、ChatGPTは「巻き込むための素材」を用意する力強いツールとして機能します。しかし、“素材”をどう使いこなすか、どの場面で、どの相手に、どのような伝え方をするかは、やはり人間に委ねられています。

次回予告

次回は、ChatGPTをチーム全体に浸透させるための社内研修や仕組み作りについて掘り下げていきます。AIと人が共に考え、共に動く組織の姿に迫っていきます。

<文/綱島佑介>

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