AIが提案資料や企画文書の“たたき台”を瞬時に作成できるようになった今、多くのビジネスパーソンの間で新たな疑問が浮上しています。
「AIが代わりに資料を作れるのなら、自分の価値はどこにあるのか?」
この問いに対する一つの答えとして、私が重視したいのが「編集力」です。すなわち、AIと共創する上で、人間が果たすべき本質的な役割が「編集者」としての立場であり、生成された情報を“伝わる提案”へと昇華させる能力が今後ますます重要になると考えています。
AI時代において、上司やクライアントを動かすような説得力ある提案を生み出すには、ChatGPTなどの生成AIが提供する“素材”を、いかに人間が再構成・再編集し、文脈や感情を含んだストーリーとして仕上げるかが大きなカギになるのではないでしょうか。
この記事の主な内容
AIは“たたき台”でしかない理由
ChatGPTのような生成AIは、論理的に整った文章構成や提案資料の原型を、非常に短時間でアウトプットしてくれます。たとえば、あるビジネス課題に対して「解決策を3案提示して」と依頼すれば、それなりに納得できるような案が出てきます。
しかし、そうして出力された内容には、しばしば「熱量」や「背景文脈」が欠落していることに気づきます。なぜなら、AIは過去の膨大な情報を平均化し、それらしい出力を生成するアルゴリズムにすぎないからです。
たとえば、競合との差別化要素を3つ提示してもらっても、その内容が本当に今の自社の課題やチーム状況に合っているかというと、それは必ずしも正解とは限りません。
だからこそ、生成された“素案”に対して、次のような問いかけをする「編集者」としての視点が欠かせないのです。
- 今この場において求められている視点になっているか?
- 社内のキーパーソンが納得・共感できる構成や表現になっているか?
- 実際の現場と整合性が取れているか?現実的に実行可能か?
このように、AIの出力を単なる完成品とみなすのではなく、ベースとなる素材と捉え、それを磨き上げる編集的アプローチが必要なのです。
ストーリーテリング力と対話型AIの共創
提案の内容がどれほど理にかなっていても、それが相手に「伝わらなければ意味がない」というのは、多くの方が経験的に理解していると思います。
説得力ある提案には、単なる情報の羅列ではなく、納得感を醸成する“流れ”が求められます。その流れこそがストーリーテリングです。ChatGPTは、このストーリーテリングの骨格を作るのに非常に役立ちます。
以下のような対話プロセスを通して、ストーリー構築の補助を受けることができます。
ステップ1:状況の共有
「この企画を部長に通したいのですが、過去に同様の提案が却下された経緯があります」
ステップ2:相手の関心や評価基準を提示
「この提案を通すには、ROIの高さと実行性、社内への波及効果を説明する必要があります」
ステップ3:構成や論点の検討を依頼
「導入からクロージングまで、流れに納得感が生まれるような構成を提案してください」
このようなステップを踏むことで、ChatGPTは「論点整理」や「課題の解像度向上」といった役割を担ってくれます。人間はその構造の中に、具体的なエピソードやデータ、感情の動きを加え、ストーリーとしての完成度を高めていくのです。
ChatGPTで資料やプレゼンを効率化する術
AIとの共創が最も実感できる場面の一つが「資料作成」と「プレゼン準備」です。以下に、実務ですぐに活用できる具体的な活用術をいくつかご紹介します。
① パワポ構成の骨組み作成
「この内容で社内プレゼンをします。10ページ構成でタイトルと各スライドの見出し案を出してください」
② 読み手に響くリライト依頼
「この提案書の1ページ目を、部長に刺さる言い回しにリライトしてください」
③ 想定QAの準備支援
「この提案に対して、上司が想定しそうな質問を5つ挙げ、それに対する納得感ある回答を考えてください」
④ プレゼン練習での壁打ち役
「今から私が話すプレゼン原稿に対して、ロジカルさや説得力の観点でフィードバックをください」
このように、ChatGPTを“伴走者”として活用することで、作業効率だけでなく、提案の完成度そのものが大きく向上する可能性があります。
編集力は、これからの管理職に求められる必須スキル
生成AIの進化によって、「考える土台」を整える時間は飛躍的に短縮されました。しかし、そこで止まってはいけません。大切なのは、“その先”をいかに自分の言葉で語れるか、相手の文脈で語れるかです。
この「文脈への適合力」こそが、AIにはできず、人間だけが担える本質的なスキルだと私は感じています。
だからこそ、管理職には次のような能力が求められていると考えます。
- 提案の意図や背景を踏まえて、構成を再設計できる力
- 聞き手の関心や期待に合わせて言葉を選べる編集センス
- 社内の利害関係を考慮し、共感と納得を生む調整力
AIを活用するだけでなく、“意味を編集する力”こそが、人間ならではの知的価値です。そして、管理職という立場だからこそ、提案の意味づけを担い、組織を動かす提案力が求められます。
「たたき台はAI、価値化は人間」。この共創モデルを実践することで、効率と納得を両立した“伝わる提案”が生まれるのではないでしょうか。
次回予告
次回は、「チーム全体でAIを活用するには?」という視点から、組織の中にAIをどう浸透させるか、またその際の落とし穴と工夫について掘り下げていく予定です。AIを全社で活かすためのヒントをお届けします。どうぞご期待ください。
<文/綱島佑介>




