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統計でたどる人類と経済の発展史 第8回:戦後復興と統計の拡大

公開日

2025年9月11日

更新日

2025年9月25日

前回(第7回)では、1930年代の世界恐慌が統計に大きな役割を与えたことを学びました。GDPや雇用統計といった“経済を測る基本の数字”が誕生し、統計が政策を進めるための指針となったのです。

今日のニュースを見れば、インフレ率やGDP成長率が発表されるたびに株価が動いたり、失業率の悪化が社会問題として報じられたりしています。例えば最近のエネルギー価格高騰や景気減速の議論も、必ず統計に基づいて説明されます。つまり、統計の仕組みや歴史を知ることは、現代の経済や社会の動きを理解するために欠かせない視点なのです。

では、第二次世界大戦後の混乱と復興の時代に、統計はどのように使われ、広がっていったのでしょうか。

1) 戦後復興と統計のニーズ

1945年、戦争が終わった直後の世界は、経済も社会も深刻なダメージを受けていました。街は焼け野原になり、工場やインフラは壊れ、人々は食べ物や仕事を失い、明日の暮らしすら見えない状態でした。物価は乱高下し、配給制が続き、人々はどの国でも「いま自分たちがどれくらいの資源を持ち、どれくらい足りないのか」を把握できずにいました。

こうした混乱を立て直すために、各国政府には「いま国の力がどのくらい残っているのか」「どこに資源を優先的に投入すべきか」を冷静に見極める道具が必要でした。そこで再び重要になったのが統計です。国民所得や雇用、物価などの数字は、復興計画や国際援助を進める上での“地図”となり、限られた資源をどの分野に割り振るべきかを判断する基準として活用されたのです。


2) マーシャル・プランと国際統計

戦後のヨーロッパ復興を支えたのが、アメリカによる経済支援「マーシャル・プラン」(1948年開始)です。爆撃で破壊された都市や工場を立て直し、人々の暮らしを回復させるには膨大な資金と物資が必要でした。しかし「どれだけ必要なのか」「どこを優先すべきなのか」が分からなければ、援助は効率的に進みません。

この計画を成功させるために必要だったのが統計でした。支援先の国々がどれだけの食料や燃料を必要としているか、鉄鋼や石炭などの基幹産業をどう復興させるか──そうした判断を下すためには、正確な数字が求められたのです。

そのため、各国は統計機関を整備し、産業別の生産や輸出入のデータを詳細に収集しました。統計は単なる国内の事情を知るための道具から、国際協力を進めるための“共通言語”へと発展し、まさに復興を支える見えない基盤となったのです。


3) 国連と国際統計の枠組み

戦後には国際連合(UN)が設立され、その下に統計委員会が作られました。戦争の惨禍から立ち直るためには、各国の経済や社会を共通の物差しで測る必要がありました。復興援助をどう分配するか、どの国がどの程度立ち直っているのか──それを公平に議論するための基盤として「世界中で比較可能な統計を整える」ことが大きな目標となったのです。

  • 国民経済計算(SNA: System of National Accounts):各国のGDPを同じ基準で測れるように整理。これにより、経済規模を国ごとに比較できるようになりました。
  • 人口統計や社会統計:出生率や死亡率、教育水準などを世界的に比較できる形に整備。国際社会にとって「どの国の暮らしが改善しているのか」「どの地域が支援を必要としているのか」を判断する目安になったのです。

こうした取り組みによって、国際社会は「どの国がどのくらい発展しているか」を数字で議論できるようになり、復興や開発をめぐる議論を感覚ではなくデータに基づいて行えるようになったのです。


4) 統計の大衆化

戦後は、統計が専門家だけのものではなく、一般市民の生活にも深く関わるようになりました。新聞やラジオでは経済成長率や物価上昇率が繰り返し報じられ、人々は「数字で景気を感じる」ようになったのです。たとえば給料が増えても物価が同時に上がっていると実質的な生活水準は変わらない──そんな議論が家庭の食卓や街角でも交わされるようになりました。統計はニュースの中心であり、社会全体の共通の話題となっていったのです。

さらに教育現場でも「統計教育」が広まりました。グラフや平均値、分布といった基礎概念が子どもたちに教えられるようになり、数字を使って社会を理解することが当たり前の素養として育まれていきました。戦前は限られた専門家だけが扱っていた統計が、戦後には「社会を理解するための一般常識」として広く定着していったのです。

まとめ

戦後復興の時代、統計は国の再建を導く“方向性”として機能しました。焼け野原の都市をどう立て直すか、限られた食料や燃料をどこに配分するか──そうした判断は感覚や経験則だけでは不可能で、数字が示す現実をもとに考える必要がありました。統計は国内の復興計画から国際援助、国連による国際的なルールづくり、そして一般市民への浸透に至るまで、社会の隅々に広がっていったのです。

この背景を理解すると、なぜ私たちが今日ニュースでGDPや失業率を当然のように目にするのかが見えてきます。物価上昇や景気後退といった現代の課題も、数字を通してしか正確に捉えることができません。つまり、統計が“生活に根づく言語”となったのは、戦後の復興期に人々が「数字なしでは未来を描けない」と痛感したからなのです。

次回は「第9回:コンピュータの登場と統計革命」について見ていきましょう。

<文/綱島佑介>

参考文献・出典

  • United Nations Statistical Commission, Historical Records
  • OECD, National Accounts Statistics
  • Angus Maddison, The World Economy: A Millennial Perspective (2001)
  • U.S. Department of State, Marshall Plan Documents
  • United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization (UNESCO), Early Statistical Education Initiatives

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