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インターネット普及期がもたらしたビジネスパーソンの進化 — 1996〜2000年代前半

公開日

2025年8月21日

更新日

2025年11月5日

前回、Windows95の発売から30周年として『PC革命から始まった社会人スキルの大転換』をお届けしました。今回は、その続きとして「インターネット」の時代へとつながります。

最初世の中に登場した際には…まるで新しい大陸が目の前に現れたかのような衝撃でした——Windows 95でPCが一気に身近になった直後、立て続けに押し寄せたのが「インターネット普及期」でした。1996年頃からADSLやISDNなどの通信インフラが整い始め、メール、検索エンジン、Eコマースといった新しい“道具”が、これまでのビジネス常識を根底から塗り替えていきます。わずか数年のうちに、情報が国境や時差を飛び越えて届くようになり、「距離」や「時間」という物理的な壁が音を立てて崩れていったのです。



背景:メール・検索エンジン・Eコマースの登場

1990年代後半、企業間のやり取りは依然として電話やFAXが主流で、資料の受け渡しには郵送や宅配便が使われるのが当たり前でした。国や地域をまたぐ場合、やり取りに数日から1週間以上かかることも珍しくなく、情報のスピードは物理的な制約に強く縛られていました。

そんな中で登場したのがインターネットです。最初は限られた部署や先進的な企業だけが使う“特別なツール”という印象でしたが、やがてその利便性が広く認知され、流れを一変させていたといいます。

  • メール:それまで電話やFAXで行っていた連絡が、24時間いつでも世界中に瞬時に届く手段として急速に普及しました。これにより、国際取引や遠隔地とのプロジェクト進行が格段に効率化し、FAXや郵送の利用頻度は急減していきます。
  • 検索エンジン:Yahoo!やAltaVista、そして1998年に創業したGoogleが登場し、知識や情報を紙の辞書や資料で探す必要がなくなりました。数秒で欲しい情報にアクセスできるようになったことは、当時としては革命的でした。
  • Eコマース:Amazonや楽天市場などのオンラインショップが本格的に稼働し、パソコンから注文して商品が届くという体験が一般化しました。これにより商取引のスタイルや消費者行動が大きく変化しました。

この時期、インターネットを使えるかどうかは、単なるITスキルではなくビジネス上の競争力そのものを左右する要素になっていったのです。


必要になったスキル

  1. 情報検索力(キーワード選び)
    ネット上には膨大な情報が存在する一方で、正しい情報にたどり着くには検索キーワードの工夫が必須でした。当時は検索演算子("AND検索"、"OR検索"、除外条件のマイナス記号など)を使いこなし、目的に応じた言い換えワードや関連語を組み合わせるテクニックが、仕事のスピードと精度を大きく左右したといいます。さらに信頼できる情報源を見極める“情報リテラシー”も同時に求められ、単なる検索ではなく、一次情報まで遡る習慣が価値を持ちました。
  2. ネットマナー・オンラインコミュニケーション
    メールの書き方や送信マナー、掲示板・チャットでのやり取りのルールなど、オンライン特有のコミュニケーション作法が求められました。例えば、件名に要点を簡潔に書く、不要なCCを避ける、感情的な文章を送らない、引用返信で会話の流れを整理するといったルールです。当時は“顔が見えない”やり取りが主流になり始めたため、誤解やトラブルを避けるための言葉選びや表現の柔らかさも重要視されました。
  3. メール管理・整理術
    急増するメールを効率的に捌くため、フォルダ分け、フィルタリング、自動振り分けルールなどの整理スキルが必須になりました。重要メールの見落とし防止や、やり取り履歴の迅速な検索も求められました。
  4. オンライン調達・取引スキル
    Eコマースやオンライン発注システムを利用し、商品比較、価格交渉、在庫確認などをネット上で完結させる力が必要に。安全な取引のためのセキュリティ意識も高まりました。
  5. 基本的なセキュリティリテラシー
    ウイルスメールや不正アクセスの危険が増す中、怪しいリンクを開かない、パスワードを使い回さない、暗号化通信を確認するといった基本的な安全対策が重要なスキルとなりました。

不要になったスキル

  • 紙資料の索引引き:かつては分厚い資料や書籍の索引ページを使って情報を探す作業が当たり前でしたが、検索エンジンの登場で瞬時に情報にアクセスできるようになりました。
  • 郵送やFAX主体のやり取り:見積書や契約書を郵送する時間的ロスは、メール添付やオンラインフォーム送信で大幅に削減されました。
  • 電話帳による連絡先検索:企業や個人の連絡先を分厚い紙の電話帳で探す作業は不要に。
  • 紙カタログによる商品比較:製品の仕様や価格を紙のカタログで照合する手間は、オンラインでの比較サイトやメーカーサイトに置き換わりました。
  • 図書館での逐次調査:新聞・雑誌のバックナンバーや専門書を物理的に探しに行く必要が減少しました。

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当時のリスキリング状況

1990年代後半から2000年代前半、多くの企業がインターネット関連の研修や講習を社内外で実施したといいます。社内LANの使い方、メールソフトの設定、検索エンジンの活用法、オンライン取引の基本、そしてセキュリティ対策といった内容が中心で、これはPC導入期の研修と非常によく似た流れでした。

ただし、PCスキルの習得に続く第2波として、今度は「オンラインをどう業務に組み込むか」が問われる時代でした。中高年層を中心に「インターネットは若い人のもの」という意識が根強く、研修参加を避ける人や受講しても活用しない人も少なくありません。また、当時は教材や講師の質が統一されておらず、実務に直結しない内容も多かったため、学びが定着しにくい課題もありました。それでも、少しずつオンラインでの業務が日常化し、インターネットスキルが“ある人とない人”で仕事のスピードや成果に大きな差が生まれていきました。


教訓:情報格差が縮まり、「知っている」より「調べられる」力が価値に

インターネットの普及は、従来の『知識人材』を塗り替えるようなインパクトをもたらします。それまで「膨大な情報を記憶している人」こそがビジネスで優位に立っていた時代から、「必要な情報を瞬時に、正確に引き出せる人」が圧倒的に有利な時代へと一気に舵を切ったのです。情報はもはや一部の人が抱え込む特権ではなくなり、誰もが同じ情報源へとアクセスできるようになったことで、ビジネスの舞台はより公平で、スピード勝負の世界へと変貌しました。

そしてこの潮流は、現代のAI活用にも直結します。AIは情報収集と整理の速度を人間の限界を超えるレベルまで引き上げ、「知識そのもの」ではなく「その知識をどう組み合わせ、どう活用するか」が成功の決定打となる時代を加速させているのです。


次回予告

次回は「モバイルインターネット黎明期」を取り上げます。まだ折りたたみ式携帯やモノクロ液晶が当たり前だった時代、ポケットベルから進化した携帯電話やPDAが普及し始め、スマートフォンの前身と呼べる端末が誕生しました。これにより、オフィスや自宅を離れてもメールや情報にアクセスできるという、当時としては画期的な“常時接続”感覚が生まれたのです。当時の端末の特徴や通信速度の限界、利用料金の高さ、そしてそれらがどのようにビジネススタイルやワークライフに影響を与えたのかを、具体的な事例とともに掘り下げていきます。

<文/綱島佑介>

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