前回は「ChatGPTでコンサル仕事の何割ができるか?」というテーマで、コンサルタントが行う各業務がAIでどこまで代替できるかを具体的に整理しました。実際、思考の壁打ちや資料構成、仮説立案といった工程は、ChatGPTの得意領域であり、すでに一定の成果を出している企業や個人も増えてきているように感じます。
では、そのChatGPTを“思考のパートナー”としてさらに活用していくには、何が必要なのでしょうか? 答えは、「プロンプト設計力」にあると私は考えています。
AIの活用において最も重要なのは、「どのように質問するか」という設計次第で出力結果の質が大きく変わるという点です。これは、単なるツール操作ではなく、「問いの立て方」を磨くことに等しく、まさに“思考力”そのものと言ってもいいでしょう。プロンプトは単なる操作コマンドではなく、思考の方向性を示す設計図でもあり、AIとの共同作業の出発点です。
本稿では、ChatGPTを最大限に活用するための「プロンプト設計術」について、具体的な考え方とテンプレート例をご紹介していきたいと思います。また、あわせて、まだAIに慣れていないチームやメンバーの育成についても考察していきます。
この記事の主な内容
プロンプトは「設計」であり「思考のフレーム」
ChatGPTに「適切な問いかけ(プロンプト)」をしなければ、抽象的で表面的な答えしか返ってこないという経験をされた方も多いのではないでしょうか。逆に言えば、問い方さえ磨けば、ChatGPTは極めて優秀な“思考パートナー”になってくれるのです。
たとえば、以下のような違いを比べてみてください。
- NG例:「この商品を売るにはどうしたらいい?」
- OK例:「この商品を30代女性向けにオンラインで販売する施策を、予算10万円以内で3案、SNS施策を中心に考えてください」
このように、目的、対象、制約条件、期待する出力形式などをきちんと設計することで、AIから得られる答えの質は格段に向上します。プロンプト設計とは、いわば「思考の設計図」をAIに手渡すこと。人間側が構造化して思考できるかどうかが、AI活用の鍵だと感じます。
プロンプトの質が変わると、AIとの対話自体が変わってきます。単なるQ&Aから、深い洞察や創造的発想を得るための“共同思考”の関係へと進化するのです。
ChatGPTを「考えさせる」プロンプトの構造
では、実際にChatGPTに“考えさせる”には、どのようなプロンプト構造を意識すればよいのでしょうか。ここでは、私が現場でよく使っている基本構造をご紹介します。
① 目的を明確にする(Why)
まずは、「何のためにこの問いを投げかけるのか?」を明確に伝えます。
- 例:「来月の社内研修の企画案を検討している」
- 例:「売上が下がっている原因を特定したい」
② 条件や制約を設定する(How)
- 例:「リモートワーク下でも実施可能な方法で」
- 例:「予算5万円以内、現場スタッフの手間を増やさない前提で」
③ 出力形式や粒度を指定する(What)
- 例:「3つの案を、メリット・デメリットつきで箇条書きにして」
- 例:「表形式で、部門別に分けて整理して」
業務別・部門別のプロンプトテンプレート例
<経営企画>
- 「自社の売上が3期連続で減少しています。外部要因と内部要因に分けて、原因仮説を3つずつ挙げてください」
- 「中期経営計画の方針を立案するために、業界トレンドと競合動向を3C分析の形でまとめてください」
- 「業界動向を踏まえた成長戦略を、定量指標と定性要素の両面から3案提案してください」
<人事>
- 「離職率が高い原因について、20代社員の立場から想定される理由を5つ挙げてください」
- 「新卒研修プログラムの見直し案を、OJT中心、リモート対応可能、コスト抑制の観点で3案提示してください」
- 「エンゲージメント向上施策を、現場管理職が明日から取り組める形で5つ提案してください」
<マーケティング>
- 「30代女性を対象に、新商品のキャッチコピーを10案考えてください。トレンド要素と感情訴求を意識してください」
- 「自社サイトのアクセスが伸び悩んでいます。LPO(ランディングページ最適化)の観点から、改善策を3つ提案してください」
- 「SNSキャンペーン施策の比較案を、UGC活用型/インフルエンサー型/広告連動型の3パターンで整理してください」
<営業>
- 「最近商談の成約率が落ちています。訪問からクロージングまでのプロセスを分解し、ボトルネックとなり得る要素を列挙してください」
- 「価格交渉が難航しやすいお客様タイプを分類し、それぞれに効果的な対応方針を提案してください」
- 「営業同行で若手に伝えるべき3つの行動指針を、具体的な行動例つきで教えてください」
<現場マネジメント>
- 「店舗オペレーションのムダを洗い出すために、チェックリスト形式で20項目作成してください」
- 「在庫管理に関する業務改善案を、初級者でも実践できるレベルで5つ挙げてください」
- 「シフト管理における公平性を高めるためのルール案を3つ考えてください」
AIリテラシーが低いチームへのアプローチ方法
▼ 小さな成功体験を共有する
- 「こんなに短時間で案が出た」
- 「整理がうまくいって会議が早く終わった」
▼ プロンプト例をテンプレ化して配布
「この質問をそのまま使えばOK」という形にすることで、心理的ハードルを下げます。プロンプト事例集やチャットワーク用テンプレなどが効果的です。
▼ 質問→AI→改善の「壁打ち習慣」を作る
最初は出てきた回答が微妙でも、「なぜそうなったか?」を一緒に振り返ることで、考え方のコツが掴めるようになります。ファシリテーター役が一人いるとスムーズです。
問いの力が、AI活用の未来を変える
生成AIが身近になればなるほど、「誰が・どう使うか」の差が広がっていく時代が来ると感じています。その中で、「良い問いを立てられる人」が、AI時代の価値ある人材になるのではないでしょうか。
ChatGPTは、最初から“答えを持っている存在”ではありません。「答えを一緒に探してくれる相手」として、問いの質を高め、思考を進めていく存在です。
だからこそ、管理職やリーダー層がまず“問いを育てる力”を持ち、それをチームに広げていくことで、組織全体が「考える力」をAIと共に底上げしていけるのではないかと考えています。
次回は、実際の企業や個人がどのようにAI活用を進め、成果を出しているかという「成功事例・失敗事例」にフォーカスを当てていきます。実践の中にこそ学びがあるはずですので、ぜひご期待ください。
<文/綱島佑介>




