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【マスログ】次元の呪い➀~高次元データの振る舞いに迫る~

公開日

2025年3月16日

更新日

2025年4月13日

 

 

【マスログ】次元の呪い➀~高次元データの振る舞いに迫る~

皆さんこんにちは。前回のマスログでは、「高次元データ」と呼ばれる現代的なデータの存在についてお話ししました。今回は、その続きとして「なぜ従来の統計学が高次元データには通用しにくいのか?」というポイントに焦点を当てていきたいと思います。

 

統計学における重要な法則

従来の統計学では、「サンプルの数が十分に大きければ標本平均が母集団の平均に近づく」という前提がよく使われてきました。この性質は「大数の法則」と呼ばれ、さらに「中心極限定理」といった理論もこの考え方を支えています。

この理論によって、たとえ母集団の全体が見えなくても、サンプルのデータから母集団の特徴を推定できるというのが統計学の大きな魅力でした。しかし、高次元データの登場によってこの理論が通用しない場面が増えてきたのです。

 

ベクトルで表す多項目データ

複数の項目を持つデータは、「ベクトル」という形で表現されます。たとえば、2つの項目を持つデータであれば「2次元ベクトル」、10項目であれば「10次元ベクトル」と呼びます。

たとえば100人分の健康診断データがあれば、100個のベクトルが並ぶ形になります。統計的な処理を行う際には、標本平均や母平均もベクトルで表し、それぞれの項目ごとに計算します。

さらに、「ベクトルの距離」という概念を導入することで、データ間の類似度やばらつき具合を数値的に捉えることができます。この距離の計算では、各項目の差の2乗を足し合わせたものの平方根を使います。

 

高次元データの意外な振る舞い

ではいよいよ、本題である高次元データの独特な振る舞いについてお話しします。たとえば、データの1項目だけに注目すれば、大数の法則や中心極限定理はきちんと働きます。しかし、全体としてデータを見たときには、標本平均が母平均から大きくずれてしまうという現象が起こるのです。

その理由は、項目が多くなることで「小さなズレ」が累積してしまうからです。1項目あたりのズレは小さくても、1万項目あればズレも1万個重なるわけです。これが、まさに「次元の呪い」の正体です。

 

球面集中という不思議な現象

この問題に対して、統計学が無力かというと、そうではありません。むしろ逆に、「高次元データならではの特徴」を活かす発想が研究されています。そのひとつが「球面集中現象」です。

高次元の世界では、データが母平均の周囲にバラバラに分布するのではなく、一定の距離を保った球面上に集中する傾向があることが分かってきました。この性質を利用して、新しい統計的手法が生まれてきています。

たとえば、主成分分析などの方法を用いて高次元データを可視化すると、データが球の表面に沿って並んでいることが確認できます。この幾何学的な構造を活用することで、逆に母集団の構造を把握するヒントにもなっているのです。

 

次元が高くなることの意味

今回ご紹介したように、次元が高くなると、従来の常識では想像もつかないような現象が起こることがあります。これは決して「やっかいな問題」ではなく、見方を変えれば新しい分析のチャンスでもあります。

統計学を学ぶ上では、「次元が増えると何が起こるのか?」という視点を持っておくと、より深く、そしてより柔軟にデータと向き合えるようになります。予期せぬ振る舞いの裏にこそ、分析のヒントが隠されているかもしれません!

ということで今回は、「次元の呪い➀」と題して、高次元データの振る舞いに迫ってみました。次回の【マスログ】も、どうぞお楽しみに!

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