空間とは?AIとは?そもそも「問う」とは…?第11回「ロマンティック数学ナイト」開催!
公開日
2018年2月23日
更新日
2019年11月27日
2018年2月17日、「内なる数学を解き放て」の合言葉でおなじみの数学イベント「ロマンティック数学ナイト」が東京カルチャーカルチャーにて開催されました。「数学を楽しく、数学を楽しむ」が理念の「数学のショートプレゼン交流会」。2016年に始まったこのイベントも今回でなんと11回目を迎えます。
今回も司会をつとめるのは、高校教師とお笑い芸人という二足のわらじで活躍するタカタ先生!
「各々の主義主張はあると思います。最小の自然数は0とか1とか! でも今日は主義主張は置いといて! 『分からない』を楽しみましょう!」
それではさっそくプレゼンター、いやロマンティストの方々をひとりずつ振り返っていきましょう!
いよいよプレゼンスタート!様々な数学が登場
【1】ねっしーさん
「数を篩にかけてみよう」
「篩とは料理に使われるものです。」
「そんなことよりもロマンを語らせてくれ」と自己紹介を割愛されたねっしーさんのプレゼンは、集合の要素数を評価することもできる手法「ふるい法」について。双子素数予想などの高度な整数論的概念にもつながるこの概念について、その有用性や実際の使われ方を教えてくれました。無限か有限かわからなかったものが有限に絞れたので無限大の進捗[1]!
[1] Zhang, Yitang (2014).
【2】ニャンチャロフさん
「美しい麻雀卓組の数理」
「群論は抽象度が高いけどいろいろ応用の効く面白い学問」
IT企業に務める傍ら、パズル作家としても活動されているニャンチャロフさんのテーマはなんと麻雀。「戦略を数学的に考えるのも面白いけど、今日は違う話」とのことで、とある麻雀大会での経験から思いついたという「群論を使って麻雀のリーグ戦をうまく作る」話。「位数4の部分置換群」「位数5の巡回置換群」「4次ラテン方陣の完全直行系」3つの手法を使って実際に構成してみせ、会場からは歓声があがっていました。
【3】山口雅司先生
「いかに問はば、届(とづ)かむや。」
「問うんですね。慈しむように。」
3人目は、ロマンティック数学ナイトの主催である和から株式会社で講師を務める山口雅司先生。山口先生は過去にも第3回、第4回、第9回と登壇されており、まさにロマンティックとしか言いようのないその語り口が人気ですが、今回はそもそも「問う」とは一体どういう行いなのか?という根源的な問いについて。問うことの目的として「伝える」という一面があることを再発見させてくれました。確かに…。
【4】タカタ先生
「交換法則」
「それではご紹介いたしましょう! タカタ先生です!」
4人目のロマンティストはなんとこのイベントの司会でもあるタカタ先生。「山口先生に感化されたので、私もロマンティックな話を」ということで、交換法則はどういうときに成り立ってどういうときに成り立たないのか?という話。「手をつなぐ」と「告白」では交換法則は成り立たない、など、自身の経験も交えて解説し、会場は笑いに包まれていました。
【5】でんたくTさん
「裏世界の存在について vol.2」
「私の推しは数直線です。かわいい」
高校2年生、「7番目の素数歳です」というでんたくTさん。第4回ロマンティック数学ナイトでは「絶対値をとるとマイナスになる数」として新たに考えた「未数(arcane number)」を披露してくれましたが、今度は「数直線上の0がかわいそう」として、「0より内側に広がる世界」を司る新しい概念「叛逆数(treasonable number)」を考えてみたそうです。これを定義することによりマイナスの長さが存在してしまうかも…? ワクワクがとまりません!
【6】式紗彩さん
「音楽LIVE」
「いつものライブだと数学好きな方ってあんまりいないから…」
大学院でグラフ理論の研究を続けながら、「リケジョ・シンガーソングライター」としても活動されている式紗彩さん。なんと最近メジャーデビューを果たしたそうで、本日はそのデビューシングルであるエルゴード理論を歌った「バタフライアタック」、テレビ東京系列で放送中の「勇者ああああ」のエンディングテーマでもある「君にしか導けない方程式」の2曲を披露してくれました! 歌唱力が半端ないよ!
【7】あずまさん
「先生!バナナはおやつに入りますか!?─グレブナー基底を使った整数計画問題の解決─」
「たかしくんがおやつ食べ終わるまでに考えてください」
愛知県から卒業旅行の一環(!)として参加したというあずまさんのプレゼンは、整数計画問題について。「Conti-Traversoアルゴリズム」「グレブナー基底」などの高度な概念が続出するプレゼンでしたが、「たかしくんが大きさと値段に課された条件を守りながら幸せ度を最大化する」という例えで表現してくれたので身近に感じることができました。こんなに高度なたかしくん聞いたことない!
【8】児浦良裕さん
「学校数学・受験数学を社会へつなぐ!」
「数学はコミュニケーションを円滑にする、数学は人類を救う!」
長く企業に務めたのち、現在は中高の数学教員をされている児浦さん。仕事の傍ら趣味としても学生に数学を伝えることの研究をされているそうですが、今回は「学校では実際どのように数学が教えられているのか?またどのように教えられるべきか?」について、6つのポイントを軸に発表してくれました。途中、ガッツリ文字化けするアクシデントが発生しましたが、それにも動じないプレゼン力の高さを感じます。
【9】檜山正幸先生
「アブダクション」
「長いこと生きてますね。いろいろありますよ人生。」
和から講師の檜山正幸先生のプレゼンは、古典的2値論理では説明のつかない「アブダクション(仮説形成)」について。「ならば」の前後を逆転するような「一見ありそうに見えるが、間違い」な推論をアブダクションと定義し、アブダクションもまんざら間違いではないことを条件付き確率テーブルを使ってわかりやすく示してくれました。
そしてわかりやすく内容も濃いプレゼンだったはずなのに我々の頭の中にはなぜか中国の踊り手の映像が色濃く残っています。
【10】松崎遥さん
「AIと代数幾何」
「パラメーター空間は人間の見ている幻想で、AIは実は層を見ているのかもしれない」
個人的な感想ですが、今回もっとも「解き放って」いたと感じられるプレゼンがこちら。「横道にそれる性分があり、仕事をしていたらいつの間にか代数幾何をやっていた」という松崎遥さんのプレゼンは「層」という数学的概念について。「任意の環はスペクトル位相をとってザリスキ位相を入れたら層になる」などの美しい結果を紹介してくれました。
正直、内容はかなり難しかったけど「私はこの結果に感動して喫茶店にカバン忘れました」とか熱く言われるとこっちも共鳴というか、いっしょになって感激してしまいます。
【11】加藤文元先生
「空間とは何か」
「今日は妄想の話をします。」
東京工業大学教授である加藤文元先生。先日のmathpowerでも「ABC予想」について包括的な解説を与えてくれたことでも記憶に新しいですが、今回はズバリ「空間とは何か」。「空間とは何かとは幾何学最大の問題である」「19,20世紀の空間概念(集合、多様体、スキーム、トポス)ではもう狭すぎるのではないか?」として、「空間」という概念がいかに数学で捉えられてきたのかを解説。そして21世紀的な空間とは「計算」…?
【飛び込みプレゼン1】三宅陽一郎さん
「ゲームAIと数学」
「ゲーム内コンテンツをニューラルネットワークで自動生成したい」
過去にも和からの別イベントでゲームAIについて講演してくれたことがある三宅さん。今回はもっと根本的な、ニューラルネットワークそのものを理解しようという話。記号主義とコネクショニズムの話、神経細胞の働きを表現するのは別にシグモイド関数じゃなくてもいい話など新鮮な驚きに満ちていました!
【飛び込みプレゼン2】金指さん
「数学マニア王決定戦」
「数学の問題ってクイズで出されない!」
大学で数学を学びながら、数々のクイズ大会にも出場経験のある金指(かなざし)さん。来る2/25に開催される、ご自身が主催されるイベント「数学マニア王決定戦」の紹介をしてくれました。例題としていくつか問題も出題。「平面上においてある2点からの距離の和が一定であるような点の軌跡を何という?」「アメリカでは10の303乗、ヨーロッパでは10の600乗をあらわす数の単位は何?」など、あなたはわかりますか?
【ペガマスからの挑戦状】
ロマ数会場に張り出される恒例の数学問題です。皆さんもチャレンジしてみてください!
おわりに
今回のロマンティック数学ナイト、いつもに比して「〜とは何か」を問う、より根本的なテーマが多かったのではないかと思います。問の立て方の自由さも、数学の魅力の一つですね。
ロマンティック数学ナイト、次回は何やら新しい試みも用意しているとか? ぜひお楽しみに!
本日のロマンティストのうち、山口雅司先生、タカタ先生、加藤文元先生、三宅陽一郎さんの4名は「ロマンティック数学ゼミ」として和から株式会社で講座を開催することが決まっています! 興味のある方はこちらもぜひ!
(文/鯵坂もっちょ)